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暴力団の大幹部殺害事件の容疑者として捜査線上に浮かんだ頭脳明せきな山内練と、警視庁の切れ者刑事麻生龍太郎の攻防。2人には過去のえん罪事件からの因縁があった。上・下巻ともに分厚い小説だが、一気に読める。(角川・上・860円、下・780円)

同性愛だったり冤罪だったり、とテーマは重たいけれど、
全く厚さを感じさせず、さらっと読むことができる。
ただ、同性愛色が強いような気がしないでもないので、
読む人を多少選ぶ本なのかな。BL小説とは全く違うと思うけれど。



婦女暴行未遂で麻生が逮捕した大学院生・山内練。いつもメソメソしていた彼のことなどすっかり忘れていたが、突然の麻生の前に現われた山内練は、新宿で最も恐れられるヤクザ・韮崎の手先となっていた。韮崎殺害事件を捜査する一方で、山内のことが気になる麻生だったが。

この人お得意の過去のしがらみ満載ストーリー。山内も麻生もRIKOシリーズのサブメインキャラクタで、ファンも多い登場人物ですが、RIKOシリーズを読んでいる方なら、番外編として楽しめることは請け合いです。が、長い!なんて長いんだ。連載モノですから仕方ありませんが、もう少し絞ってもよかったのでは・・・。ものすごく複雑怪奇な人物関係の中に、なんとなくこうなるだろうなあという線が見えてきて、ラストではおーすごい、ここまで繋がっちゃうわけ?と、ある意味感動もありましたが、盛り込みすぎの印象は拭えません。この番外編が、この後のRIKOシリーズにどう繋がっていくのか、あるいはいかないのか、によって、評価が分かれるところかも。ただ、ラストの大団円に向かう辺りは一気読みでしたし、あまりの哀しい結末にうるうるしましたが・・・。RIKOシリーズを含むハードボイルド柴田ファンの方にはおすすめ。

柴田よしきのデビュー作「RICO−女神の永遠−」シリーズ第2作目の「聖母の深き淵」から圧倒的な印象で登場する山内練。そしてリコの上司として登場する麻生。この二人、またヤクザと警部の関係だけじゃない。性別を超えた(?)
ゆがんだ愛によって繋がっている二人。どうして?どうしてこの二人がそんなつながりを??と不思議に思っていた。

その、つながりを語ったのが今回の「聖なる黒夜」

山内練はヤクザの組のものというわけではなく、金だけを動かす経済ヤクザ。
女の子のような外見にしなやかに鍛え上げられた肉体。
しかし血も涙も無いしうちに「人間じゃない!」と何度かシリーズ中言われているはず。
しかし、なんともいえない魅力を持つ。
男としては最高の「麝香の体臭を持つ男」

麻生警部も苦みばしった中年男性の哀愁をただよわせている。
女房に逃げられ、「石橋の龍」というあだ名のとおり石橋を叩いても渡らないというからかいともとれる、しかし安定した信頼を部下から受ける仕事をする男。

今回は春日組の若頭、韮崎が殺されたという事件。
山内は始発電車を線路の上に寝そべって待っていたとき、韮崎に拾われ「俺の命は韮崎が拾ったもの」と韮崎に愛とも忠誠ともとれるほど身をささげる。
その韮崎事件で麻生班と暴力団専門の捜査4課の及川の班が合同でぶつかる。
及川もその昔、麻生の先輩でただならぬ仲。

麻生は捜査の最初のうちに、及川から山内に引き合わされる。
その時はどこで麻生が山内とつながっているのか、麻生もわかっていなかったがそれは10年前の世田谷での婦女暴行未遂事件に繋がっていた・・・。

二人の男性の純愛と書いたけれど、これは本編にもがっちり出てくる、ヤクザの山内練と、元刑事(この時点では、まだ現職の刑事)の麻生龍太郎の事。悪魔のような山内はなぜ生まれ落ちたのか、愛憎渦巻く山内と麻生の関係はなぜあんなにも縺れ合ったものになってしまったのか、その答えの殆どはここに描かれている。

ちなみに、タイトルの「聖なる黒夜」とは、山内が東日本連合会、春日組の幹部、韮崎に助けられた夜の事。聖なるバレンタインデーの夜が明ける頃、線路で始発を待っていた山内を助けたのは韮崎だった・・・。

勿論、ここで山内を助けるのが違う人物であれば、山内は「悪魔のような」男にはならなかっただろうし、更に遡れば、麻生と山内の二人の最初の出会いであった、あの事件さえなければ、ね。真面目な大学院生だった山内だけれど、誰もが悪魔のようになれる、そういう素質を持っているのか、それとも山内が特別だったのか??(ここでは、山内は無垢な中にも、元々そういった素質を持った、魔性の男っぽく描かれておりまするが)

しかし、周囲の色々な事情が描かれれば、描かれるほど、大学院生だった山内を襲った事件や、その後の付随する出来事は如何にも陰惨(取調べの中のあんな行為や出来事を忘れている麻生もどうかと思いますが。それともあれは封印していたの?)。そして、この後、誰も報われないまま、二人は恋に堕ちてゆくのよねえ。はーーー。白檀の甘い体臭を持ち、胸には蝶の刺青を持つ男、山内練。彼は他のシリーズでも活躍しているそうであります。

不幸のスパイラルの中、それでも二人共に堕ちてゆくのは幸福なのでしょうか。たとえ、全てが遅すぎたとしても。









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