月と茉莉花 (2003年 幻冬舎 リンクスロマンス)
「……あなたはひどい人です……」
▼内容
「切なくも甘い、魂を揺さぶる感動の歴史ロマン」というか、中華風世界を背景に描かれたロマンス。 エン国太子の煬大牙は、自国を裏切った国「湘」を滅ぼし、湘の第一公子を捕虜にする。
公子は盲目のため、湘王である父に廃嫡とされ、名も付けられず、存在すらうち捨てられて北の離宮に幽閉されていた。それでも潔く「湘」と運命を共にしようとするが、500ほど暗記しているという戦火で失われた書を筆記させるのを条件に、命を永らえる。だが、美しく儚げな公子に、大牙はいつしか惹かれ始める。(※エンは王偏に炎だけどパソに打ち込めない…)
▼書評
誰もが知るように、恋はいつでも落雷のようなもの。それには打つ手なんてないし、王様だろうと小市民だろうと、教養があろうとなかろうと、分別なんてどこかへ飛んでいってしまう。 そんな激しい恋愛を、佐倉氏は湧き水の中に火照った足を浸しているような、静かな情調を立ちのぼらせて描写している。 盲目のため亡国の廃嫡され、陰のように生きてきた公子と、新興の国の王として、力強く傲慢で炎のような太子。立場も性格も正反対の二人が、ゆっくりと心を寄せていく様子がいとおしく思えてくるような魅力的な展開で、上質なラブロマンスに仕上がっている。 新人さんということだが、しっとりとした文体で引き込まれ、品のよい筆致なのでうっかりするけど、情交シーンがなんとも官能的。
同性であることに本人も周囲も大して懊悩はなく、JUNEというより今風のBLだと思うが、私の好みの切ない系の話なので、私的には久しぶりに堪能できた――このところ外しまくっていたし(笑)。続編を期待したいところだが、そうなると、たとえば後継を残さねばならない一国の太子が同性を娶るわけにもいかず、したがって二人には厳しい環境が待ち構えるはずだし、身体だけでなく、心も深く寄り添わせた恋の先には何があるのか、というところまで掘り下げて、前途多難な恋愛模様を描いてほしいなぁ。筆力がある作家さんだから、つい期待してしまう。 なにか胸がキュンとなるようなBLはないかしらん、という方にお薦めの、久しぶりに(こればっかり)次回作が楽しみな作家さんである。
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