江森 備(えもり そなえ)


作者略歴
雑誌『小説JUNE』の「小説道場」出身。
「小説道場」第四回『桃始笑(私説三国志 第一作)』で、中島梓(小説道場の道場
主)氏から四級認定。その後、第六回で一気に道場初の初段、第九回の時には
二段を獲得。道場主に一番弟子と絶賛された。
代表作『私説三国志 天の華・地の風 1〜9巻』は「江森三国志」とも言われ、世に
ある『三国志』関係の本の中で微妙な位置にありながら、ヘテロな方々にも一目置か
れる作品である。
他に、エジプト神話をモチーフとした『王の眼 1〜3巻』(発行:角川書店)がある。
こちらは古代エジプトを舞台に、二人の少年が王家の権力争いの核となっていく物
語。こちらも冒頭の王国地図からして、よくもここまで古代エジプトの地名を探し出し
たものと感心するほど、緻密に構築されている。そして、やはりちょっとJUNEっぽい
――だから私はややっこしいエジプト神話についていけたのだけど(笑)。


 私説三国志 天の華・地の風  全九巻(シリーズ書評)
 私説三国志 天の華・地の風 一
 私説三国志 天の華・地の風 二
 私説三国志 天の華・地の風 三
 私説三国志 天の華・地の風 四
 私説三国志 天の華・地の風 五
 私説三国志 天の華・地の風 六 
 私説三国志 天の華・地の風 七
 私説三国志 天の華・地の風 八
 私説三国志 天の華・地の風 九






私説三国志 天の華・地の風 全九巻
光風社/1986〜1998年


 第五巻読了までのシリーズ書評
「江森三国志」とも言われる三国志のパロディ本の力作。「同性愛がなければ」という怨嗟が絶えない、いわくつきの作品でもある。
冷徹怜利のカリスマ軍師である諸葛亮孔明(以下本書の表記に従い、諸葛亮ではなく孔明で統一)が同性愛者として描かれているばかりではない。劉備を中心に蜀内部の血みどろな権力闘争をストーリーの本流として、登場人物の各人を欲もエゴもあり嫉妬もする生々しい人間として捉えている。どろどろした人間関係や、水面下での攻防などもリアルに描かれているのも面白い。
つまり、三国志を下敷きにした数ある作品の英雄像をきっぱり裏切っているのだが、それはこの作品において必然なのだ。

愛を求めつつも、孔明の根底には根強い人間不信がある。彼にとって他者は利用価値があるか否かでしかない。たとえ愛を与えられても頑なに心を許すことができない。それゆえ人々に一目を置かれながらも、孔明は常に孤独だ。

肉からはじまった愛はどんなに固く心を繋ぎあおうと、
結局、肉欲であることに変わりはないのだ。

悦楽に狂乱しながら、孔明の意識はどこかで醒めている。その孤独な魂を際だたせるための道具立てとして、孔明は同性愛者という異端の立場を与えられている。
さらに、従来は英雄譚として語られる孔明を巡る人間模様が、身内をも含め矮小に描かれる<必然>を、流麗にして硬質な文体で描き出している。

姓名と字を続けて表記して「名前」としているなど中国史物として逸脱していると批判もあるが、江森氏はあえてそれを選択しているのだと思う(註)。それほど作者は三国志を勉強している。率直に言って、三国志の知識は男性諸氏が好む(?)北方謙三版を読むかぎり比べると遥かに上。論文の一つや二つ、軽く書けるほどの巻末の参考文献の膨大さにも驚くが、実に綿密に考証されており、歴史小説としては正統派である。だからこそ「同性愛でなかったら」という怨嗟(嘆き)の声があがるのだけど、濡れ場はそんなに多くはなし、露骨な描写はない…と思う。

濃密に描かれた心理描写とともに、政治、経済、戦略戦術、陰謀についても丁寧に、要所要所で正史の記述が矛盾なく組み込まれており、男色シーンでつまずかなければ、三国志ファンがハマる要素大――がんばれ!――ただし、劉備ファンは読まない方がいいかもしれない。
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(註)中国歴史物を読むとき、まず悩むのが名前。名前は姓と名、そして字(あざな)があり、幼名もある。たとえば「劉備」は、劉=姓、備=名前、玄徳=字(通称)で、劉予州とも呼び、これは役職(むーん…)。
諸葛亮、字は孔明。本名で呼ぶのは、主君か一族の父、有力者しか許されなかったらしい。通常は字をとって諸葛孔明と、名より通称の字で呼ぶことが多いはずなのだが、どうやら『三国志』ファンの間では違うらしい(?)。ここがよく分らない…すみません。







私説三国志 天の華・地の風 一


わたくしは、蛇です。



三国志「赤壁の戦い」直前の頃。孔明が女細作(しのび)であるフェイ[非<木]妹(フェイメイ)に、大都督・周瑜の元からある物を盗み出すことを依頼するところから物語は始まる。

蜀の若き軍師・諸葛孔明は、呉と同盟を結び、魏と戦うべく、劉備の使者として呉に単身乗りこんだ。孫権をその気にさせるのには成功したものの、ある理由から人質同然に呉に留め置かれる。
実は20年前、孔明がまだ10歳の頃、彼は相国薫卓の枕侍童として使えていた。その折、薫卓のお抱えの画師によって仕女図や侍童図、閨房図が描かれていた。薫卓が誅された時に城と共に灰になったはずのそれらの画が周瑜の手に渡っており、それを盾に呉に仕えるか、服従するかの選択を迫られる。画を公開される事は、孔明にとって開き始めた天下への道を閉ざされることである。劉備を裏切ることもできない。服従の証として、孔明は周瑜に関係を強要される。
やがて周瑜は孔明に執着を深め、孔明も周瑜に惹かれ、心を乱しつつも、劉備の、そして己の野望のためにある暗い決意をする。周瑜公瑾との愛を捨てて、その決意をするシーンは泣ける。

補足として、義理と人情――「三顧の礼」で迎えられ、「水魚の交わり」といわれるほどの親密な交わりがあるとはいえ、己を投げうってまで、なぜ孔明は求めてやまない周瑜の「愛」を振り捨て、劉備の元に残るのかが少し分りにくいかもしれない。
その理由は、本シリーズ未収録の短編『桃始笑』にあったと思う。

現在手元に本がないので少し怪しいのだが、子供の頃に無残な陵辱を受け、人間不信を拭い去れない孔明だが、劉備が求めているのが肉欲ではなく、自分の知性と才知であることに安堵し、感動すら覚え、劉備に仕えるまでを描いている。
つまり孔明はそれほどに孤独だったのだ。
自分を認めてくれたという感動から、孔明は劉備にプラトニックな想いを寄せていく。このシリーズはそのあたりから始まっている。
残念ながら、『桃始笑』は「JUNE全集 第10巻/短編小説傑作集」に収録されているのみ。
もちろんこのシリーズだけでもその心の機微は分るが、復刻されることがあればぜひ収録して欲しい。







私説三国志 天の華・地の風 


人間は、こんなにも簡単に、相手を切り捨ててしまえるものなのか?



孫権の妹・尚香が劉備に輿入れした。臥竜・孔明と並び称される鳳雛のホウ[广<龍]統が、孔明の推薦で劉備に仕えることとなる。だが劉備は会ったばかりのホウ統に心酔し、孔明と同格の軍師中郎将に任命しようとする。
軍師中郎将の座は「赤壁の戦い」という試練を経て孔明がようやく掴んだものだ。当然ながら、孔明の胸の内は穏やかではない。冷然たる様子の内実では嫉妬も妬みも渦巻いていた。その人事は、劉備の周囲の武将たちをも二派に分けてしまう。
さらに、兄弟弟子であった孔明と比較され続け、鬱屈したものを抱えるホウ統は独自の動きを見せ、孔明をさらに苦悩させる。
そして孔明が尚香の勧めで、呉にいる兄・諸葛瑾から養子をもらうために都を留守にしている間に、尚香は劉備の嫡子・阿斗を連れて、実家への逃亡を図り、孔明はますます苦境に立たされる。
その苦境を救うために、女細作(しのび)フェイメイはある行動にでる決意をするのだが――。

孔明は敬愛する劉備の裏切りにも匹敵する行為に傷つき、己が選択したものに疑問を抱く。
2度とまみえることのない周瑜を狂おしいほど思慕する孔明の寂寥が哀れだ。だが、この巻で一番切ないのはフェイメイの恋心であるかもしれない。
日和見で移り気な劉備の背中にケリを入れたくなった巻でもある(笑)。







私説三国志 天の華・地の風 三


これは、血で汚れているのだ。



ホウ統亡き後、劉璋の家臣だった法正が頭角を現わす。法正は劉璋を裏切って蜀に来たにも関わらず、次第にその存在は大きくなり、ついには蜀軍太守、揚武将軍に任命される。
しかし孔明は、裏切り者は再び裏切るという信念から、法正陣営を切り崩すために魏延を取り込む手段を模索する。
その一方で、孔明は国家を安定させるために政務の合間を縫って、紡織産業を定着させるべく、織成技術の向上に情熱を傾ける。

だが孔明は、自分の側に取り込んでいた筈の歌姫・香蝉により、魏延に性癖を知られてしまう。香蝉の本名は燕郎といい、かつて魏延の枕侍童を務めていたのだ。
魏延は孔明を服従させるために関係を強要する。

「赤眉」を名乗る暗殺集団に狙われることになったり、実弟・諸葛均が曹操側の間諜であることを知りつつ利用するために泳がせたり、細部に巡らせる策略など、孔明は冷徹で冷酷でさえある。それゆえ孔明は孤独であらねばならないのかもしれない。
しかし、孔明の命運を握る「性格も考え方も、最も高慢で陰惨」な魏延だが、彼もまた孔明の計略に嵌ったともいえる。

ところで、関羽の妻として登場する貂蝉を筆頭にして、蜀の地に一大紡織産業を興すシーンがある。あまり知られていないけど、これは史実(貂蝉は出ない)。後に「蜀錦」は魏や呉でも貴重品として高く売買されるようになる。このあたりにも江森氏の並々ならぬこだわりが垣間見える。







私説三国志 天の華・地の風 四


私は私の息などしてこなかった。



病と称して引きこもっていた孔明が火急の用件で劉備の前に伺候した日、折りしも関中攻めの軍議が行われようとしていた。軍師座には法正が座っていた。法正は孔明がいない間に事を進めようとしていたのだ。孔明の一言でその計画は頓挫するも、法正は着々と劉備に取り入っていた。
孔明は魏延に弱みを握られていることもあり、ホウ統が重用されていた時と同じような立場に追い込まれる。
しかし、その頃から魏延の態度が少しずつ変化してゆく。彼は孔明に魅了されつつあったのだ。

蜀の水面下では陰謀と策略が渦巻いていた。内憂外患に心を砕く孔明だが、そんな折、荊州にいた関羽が呉によって無残な最期を遂げる。そしてまた、流行病によって法正が病死。劉備は義弟の仇討ちのために、孔明はじめ重臣たちの諫言も聞かずに呉の征討を命ずる。
計略と情義のはざまで苦悩する孔明だが、覚悟をきめ、劉備を諌めようとするが、逆に周瑜との関係を持ち出されて無残にもますます遠ざけられてしまう。
国家のために孔明は策略を張り巡らせ――やがて劉備死す。

孔明の思慕はついに劉備に理解されず、孔明はつぶやく。

陛下の許で、私は一度として人としてあつかわれたことはない。

魏延は、そんな孔明を畏怖しながら、彼を「かなしい」と思う。魏延が孔明の理解者となっていくのが救いである。







私説三国志 天の華・地の風 五


――君、かれを愛さざるや――



劉備の遺詔によって国権を総覧した孔明は、皇太子・劉禅を立て皇帝とし、成都丞相府を足場に諸政刷新に乗り出す。疲弊した財政経済を立て直すのは2〜3年かかると言われる大仕事だ。その財政再建の合間にも、孔明は密かに南にも手を回す。3年前、劉備が在世で呉に大敗した頃に起きた南中での蛮族の乱が未だ完全に平定されていなかったのだ。
劉備の死後、呉との関係は修復され、改めて孔明が呉の手の引いた南中を平定べく進軍する。孔明は、既に反乱軍の主だった顔ぶれの内に内訌の種を吹き込み、疑心暗鬼に陥らせ、そのあらかた討ちとることに成功。残る敵は一番人望が厚いと言われている南蛮王・猛獲の軍のみ。
しかし魏延や趙雲らと共に猛獲の陣に夜襲をかけた際、相手の奇襲により孔明は谷底に墜落、猛獲軍に捕虜として捕らえられてしまう。

2巻で姿を消した女細作フェイメイが猛獲の情婦・阿詩瑪(あしま)として登場。彼女の手を借り、孔明は瀕死のうちから救出される。
猛獲軍は幾度となく進攻するが、情勢は孔明率いる蜀軍に有利に進みつつあった。
そんな折、孔明に窮地を救われて細作見習いとなった少年・汝秀の密告で、猛獲にフェイメイの正体が露見。救出されたものの、フェイメイは猛獲の知らぬところで、彼の正夫人・祝融とその弟によって残忍な折檻を受けていた――。

孔明が、己の立てた作戦に嵌って死にゆく敵兵の地獄絵を見つめ続けるシーンは圧巻。
孔明は血の気のない指で魏延の手を固く握りしめる。

魏延はもう片方の手を、そっと上にかさねた。

この1シーンで魏延は男の株をぐんと上げたに違いない。
手酷い目に合うものの、おそらくこの「五巻」が孔明にとって我が世の春――権力を手中に収め、また、魏延との愛を育み(笑)幸せだったと思う。







私説三国志 天の華・地の風 六


おまえに死んでほしくない。



50万の大軍と1年もの歳月を要した南蛮王・猛獲の征伐から2年後。漢丞相・孔明は「出師の表」を表して劉禅から魏討伐の許可を得る。
漢中から長安をうかがう蜀軍のもとに、呉にいる諸葛瑾から、魏の司馬懿には要注意との手紙が入る。呉の荊州軍も先の江夏石陽の役で、司馬懿によって大敗を喫していたのだ。
曹操に疎まれた司馬懿だが、曹丕には目をかけられ、曹丕が魏の文帝となってから頭角を現わしていた。司馬懿の弱点を探るべく、孔明は細作を放つ。
一方、孔明自身は魏延らと共に興国へ微行する。
側近は孔明の身を案ずるが、先の猛獲との戦いの後、孔明の猛獲に対する温情ある扱いを見て、
――諸葛孔明は、中華人の血にはこだわらないらしい。夷狄(いてき)の我々にも、同じ権利を認めてくれるらしい。
という噂が流布。魏に押さえられていた西戎夷狄の人々の希望ともなっていた。無論、それも孔明の周到な根回しの結果だが、魏に襲われるまで馬超に仕えていた蒲阿里は、孔明に恭順を表す。さらに孔明は敵対していた天水郡を落とし、その中郎将であった姜維(きょうい)を側近に重用する。

孔明と魏延との結びつきがより深まり(ほとんど新婚さん…笑)、しかし処女(おとめ)であるはずの孔明の妾の懐妊、少しずつ深まる皇帝・劉禅との溝、さらに養子・諸葛喬の戦死と、孔明の身辺が慌しい。
さらに、孔明にとって忌まわしい『仕女王氏図』がある裏切りによって、魏の司馬仲達の手に渡り、今後の波乱を予感させる。
ここで登場する姜維はのちのちまで孔明に深く関わってくる。






私説三国志 天の華・地の風 七


「あれは、贄(にえ)



街亭での大敗戦から2ヶ月後。孔明は趙雲、魏延ら主力を漢中に残したまま、成都へ帰還する。敗戦の責任を取るつもりで戻った孔明を、成都は凱旋将軍を出迎えるがごとき歓呼の声で迎えられる。敗戦は、朝廷によって勝利とすり替えられていたのだ。
形を重んじる孔明は敗戦の責任をとって丞相の座を退きたいと劉禅に言上し、地位は降格されるが、その代わりに右将軍として国政の重責を担うことになる。劉禅は自分の地位の安定のために、孔明をおだててこれ以上の遠征をやめさせ、これ以上、孔明の名が天下に示されるのを阻止したいのだ。劉禅は側近たちと、孔明追い落としを画策していた。
一方、仲達は『仕女王氏図』に描かれている待童を孔明であることを認めながらもいぶかしみ、孔明の過去を探っていく。

この仲達がなかなかの傑物。「劉禅の考えることなど、しょせんはお坊ちゃまのお遊び」と言い切り、劉備にして「本能と行動力でのし上がった人物」と見切っている。
陰謀、策謀蠢く身内にあって、敵である仲達が海千山千とはいえ、人間的に出来た男であるのが、孔明にとって慰めか。←もちろん孔明はその幸運を知らないのだが。






私説三国志 天の華・地の風 八


この人は、鎖に繋がれている。



孔明が病に倒れた。その報せを得て、魏は漢中に総攻撃をかけることを決定する。漢中南山下原で養生していた孔明の元に知らせがはいる。気力で孔明は本復するが、自分の留守をあずけたはずの李厳の不誠実のために「博打以下」の戦を強いられることになる。
魏の進軍開始に際し、敵が迫り手に余る事態になった時を備えて、孔明は高翔、李恢、王平、姜維の4人に錦袋入りの命令書を渡す。さらに、孔明が主要の糧秣輸送路として使っていた米倉道が賊の襲撃を受けたり、雨で寸断されるなどアクシデントが続き、ついに糧秣不足となりつつあった。
たが、李厳の配下である苟安の運ぶ米に限って、常に5日以上遅延し、量も半ば以上失っていた。苟安の不実を見抜いた孔明は、大雨のせいだと言い逃れようとする苟安を厳しく詮議、処罰する。ほうほうの態で李厳の元に逃げ帰るかと思われた苟安は、だが、魏の司馬懿の元へと走ってしまう。
しかし降り続く大雨のために戦況は膠着、両軍とも撤退を余儀なくされる。
一方、都では孔明謀反の噂が何者かによって撒き散らされ、孔明は入朝を命ぜられる。

劉禅の権力を後ろ盾にした政敵・李厳との陰湿な確執、水面下の攻防など、丁寧な描写が重厚で面白い。
戦場での仲達との邂逅が印象的――男としては面白みはないと思うのだけど、仲達は敵としてあっぱれ!






私説三国志 天の華・地の風 九


「おまえがのぞむなら、命も惜しまぬ」



孔明は姜維や娘の朝薫、細作数名を連れ、微行で呉へと向かう。目的は孔明の兄の諸葛瑾に会うこと。その旅がきっかけとなり、姜維と朝薫は互いに心惹かれる。そして孔明も、姜維を娘の婿とするつもりでいた。
だが、夜更けに朝薫の元を訪れようとした姜維は、孔明と魏延のことを目撃してしまう。さらに魏延の言葉から、孔明が自分に良く似ていたという周瑜とも関係を持っていたことを知る。のだが――正直に言ってしまおう。この最終巻の粗筋はあまりにも苛烈で書けない。実はそれでUPまで時間がかかってしまった(心弱い乙女なの…笑)。

物語はラストに向けて急速に収斂していく。そのストーリー運びにも無理がなく、綿密に張られた伏線が後半になればなるほど生きてくる。
孔明を憎悪し、執拗に命を狙う暗殺集団・赤眉の首魁たる男の正体に驚かされる。男は、司馬仲達の軍師となっていたが、孔明の過去を丁寧に調べた仲達にその正体を見破られ、殺されてしまう。なぜ敵対している仲達が孔明の仇敵たる男を取り除いたのか分りにくいのだが、その男の孔明に対する憎しみ、哀しみは哀れでもある。
だが一番の衝撃は、孔明が非業の最期を遂げることだ。この結末は、表面上の史実は同じなのに、江森氏にかかると今までの三国志が浅く感じられてしまほど。二次創作としては掟やぶりかもしれない創作人物の用い方などにも違和感なく、江森氏の力量に、ただただ感服。
最後まで孔明に付き添う魏延がいい。男気のある「これぞ男」――それとも、恋のなせる業かな。




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