龍神沼綺譚 初出『小説JUNE』1982年10月号〜'85年4月号/
昭和60年光風社/後に角川文庫
物語は17歳の田嶋省吾の養父の葬式の場面から始まる。日本画家であった養父が描いた絵の母には角が生えていた。その母は省吾にも出生を明かすことなく、すでに世を去っている。母には浮世離れした美貌とあいまって様々の怪しげな噂がつきまとい、画壇では伝説の女となっていた。
省吾が自分の出生の秘密を求めてたどり着いたのは、平家の落人が住む人里離れた集落であっ た。
陵辱される美少年の淫靡な香り、血の因習に囚われた村人たちの時代錯誤ともいえる反応、龍神の怒りとは何を示しているのか、など、たっぷりと耽美に包まれた泉鏡花風の伝奇小説である。
それだけなら舞台設定からして古色蒼然とした作品である。だが、いきなり現実に引き戻される最終章の「青の回帰」で、この古臭い因習は生々しく、俄然生 きてくる。…そこにたどり着くまでが長いけど(笑)。初期JUNE時代の代表作品である。
尚、作者は1997年『ペルソナ』から榊原史保美と改名している。
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