カンナギ様式 2002年6月/発行 ビブロス
「でも……ふつうって、解らないよ」
▼内容
高校生の神薙密と宮は双子だが、内面は正反対の嗜好を抱いている。
真面目で大人しいが、ヤクザの男を好きになって自ら奉仕し、支配されることで喜びを感じるような壊れた一面を持つ蜜。キレると見境がなくなってしまうほどの凶暴さを持つ宮は、破壊することで興奮する。
幼い頃に母親に捨てられ、父親には虐待され、双子は互いに寄り添うしかなかった――過去が歪ませた2つの個性。
そして懲りない密がふたたび危うい恋に惹かれつつあった頃、宮は仲間を率い、裏の世界へと足を踏み入れていた……。
▼書評
重いテーマによく挑戦されたな、と思う。
児童虐待をテーマにした作品には『永遠の仔』という傑作があるが、BLというジャンルにある作品だけに、ずっとライトに書かれてる。とはいえ、読んでいくにつれ気分が暗くなるかもしれない。多くの人は、重すぎるテーマに目を背けたくなるかもしれない。私自身、読んでいて辛かった。レビューまでに時間がかかったのも、自分の中で消化するまでに時間がかかったためだ。
求めることも望むことも出来なかった二人は、ある献身的な二人の人物の手によって、その感情を取り戻す。たとえそれが歪んだ感情だとしても、人形のように怯えながら息だけをしていた頃よりは、よほど人間らしいというものだ。
もちろん、人を殺すことに躊躇いすら感じないような宮に、好感を持てない人もいると思う。
それでも歪んでしまった心ごと、その哀しさを抱きしめてやりたいと私は思った。
この本に出会い、救われる人がいるだろう。それは必ずしも児童虐待を経験した人と云うのではなく、ちょうど『永遠の仔』で救われた人がいたように。
庇護する立場の人間からわけの分からぬままに虐待された子供たちの心理については、それぞれの方がいろいろ思うところがあるだろう。
そして彼らの痛みが分からずにすむなら、その人は幸運な人だと思う。
この作品は、そう云う意味では覚悟して読むJUNEだ。
重い話が続いたが、この本、ちゃんと、えっちも面白い(笑)。また、蜜が恋するオジサマが渋くてカッコいい。私的に好みなのだった。ま、ちょっとしか出てこないけどさ(爆)。
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