魘・一夜 初出「小説JUNE」91年4,6月号/角川ルビー文庫
俊介は眠っている
▼内容
ヒデと重夫シリーズ、第二弾。
重夫が亡霊を見る。そして殺人事件。と、いうのがこのシリーズのお決まりで。
僕、鈴織秀城(すずおきひでき)は駆け出しの学生作家。
相棒、紀重夫(きのしげお)には、霊感がある。ゆえに僕はネタには困らない。ちなみに僕に霊感はない。
重夫、外見ははなまるだけど、スケベなことこのうえもなく、とんでもなく浮気性。ちなみに僕、チビで童顔。とーぜん浮気はしない。ミもフタもなく説明しちゃうと、僕と重夫は世間にはばかる恋人同士。
この度は友人の上坂進也(うえさかしんや)クンのバイト先に、2人してちゃっかりくっついてきてしまった。というのも、一週間の約束でスキーのコーチ、もちろん宿泊費、食費ともにタダ、友人同伴OKという好条件に便乗して、「僕たちにもスキーをコーチせよ」と、半ば強引に押しかけたってわけなのだ。あと、重夫が上坂クンに入れ込んでるから、それも強引さの原因。
場所はウィンターリゾート、蒼神湖畔「幽明荘」。家主の為にスキー場まで併設されている。
その別荘の主、早乙女隆介(さおとめりゅうすけ)は、美貌の若手医師、27歳。おまけに重夫と同じく(?)どういうわけか上坂進也クンがお気に入り。自分はプロ級の腕前なのに、わざわざ上坂進也を名指ししてコーチを受けようという強者である。
そして事件が起きる。幽明荘の管理人が殺されるのを皮切りに、芋づるを引くように露呈する怪しい過去の数々。
そして横行する亡霊たち。いや、亡霊ではない、屋敷のなかにもうひとり生きているだけかがいるのでは? と、誰かが気づいた。いくつかのバトルを経て、幽明荘の構造上のからくりが解明され、亡霊たちも無事に正体を現して、めでたしめでたし(?)
▼書評
このシリーズはミステリータッチである。
重夫が霊感とやらを持っているので、たいてい亡霊がらみである。が、しかしその亡霊たちの扱いは、生きている者たちよりも数段上、このうえなく良心的で好意的なことが多い。
このシリーズに於いて虫酸がはしるのはたいてい生者の方だ。
もう一度読み返してごらんなさい。私は作者が呪われていないのはそのせいなのではないかと考えている。
閑話休題、昨今は精神的障害とか、マインドコントロールに起因するミステリーが流行っている。
幽明荘における一連の事件も、結局そういうことなのだ、つまり早乙女隆介という男は自分でも知らぬ間に強力に呪縛を受けており、コントロールしているのは、美貌の隆介に執着している彼の兄である、と。
しかしながらこの兄は弟を犯しながら、決してそうとは認識されず、自業自得とはいえ、いささか不幸な男である。
まあ弟の方も自分を犯しているのが亡霊だなんて思い込んでいるあたり、なさけないとしか言いようがない。ミステリーとはいえジュネなんだからと思ってストーリーをはしょったんだが、結局書いちまった。
で、なにが言いたいのかというと、今でこそこの手のネタは溢れているが(ア○デミー賞を取ったあの映画だってちょっとあやしいでしょ、観てないんだけどさ)、この作品が初めて世にでた91年頃には、ちょっと斬新な手口だったってこと。ジュネ作家って貪欲なのね、と私は感じたってことです。
で、シリーズ化しているってことは、秀城と重夫のカップルにそれなりの人気があったんだろうけど、私としてはこの二人、あまり好きではなくって、何の見返りを期待してこの長い長い感想を書いているのかというと、この作者の作品には度々顔を出している上坂進也くん、というキャラクターのためだったりするんですね。
掟やぶりなことに、この男、ノーマルだということになっている。決してハンサムでも美貌の青年でもなく、ちょっとコワオモテで、でも笑うと八重歯がかわいい好青年。普段はどうでもいいの、でもいざというときの行動力、というのが彼のウリ。
目立たないけれど、彼は様々な作品にチョイ役で出演していたりする。私のあやふやな記憶で言えば、一作だけ彼の主演した短編があったはずなのだが、どなたかご存知ないでしょうか? ノーマルな進也クンが、たしか同居人のマヤくんと夢のなかでナニする話だったと思うのですが。(栗原夏洋 記)
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