本格ファンタジーの超大作。
作品は『神狼記』『黒狼秘譚』『白狼綺伝』の三部構成で成り立つ。
時系列とてしは、『黒狼秘譚』→『白狼綺伝』→『神狼記』の順となる。
どこからでも読めるシリーズ構成ではあるが、『神狼記』(特に「神狼記W」以降)は最後にした方がよろしいかと思われる。
人として生を受けながら、神々の王の日嗣として育てられた「神狼」アシュラウルは、運命神によって再び人間の世界に戻される。
故郷での激しい戦乱ですべてを失った彼は、争いのない世界を夢見ながらたどり着いた新しい大陸でも、否応なしに人間社会の争いに巻き込まれていく。
争いを憎みながらも、やがてアシュラウルは大陸制覇を目論む獅子王ダリュワーズが統治する強大な帝国に立ち向かっていく。
その影には神々への復讐を窺う、邪悪な妖魔の存在があった……。
強くて美しいの主人公というのはファンタジーではお約束かもしれないが、神の強さと人間の弱さを併せ持つアシュラウルが(彼は半神。人間としては無敵ともいえるが、神としては極めて非力)、対等以上の強敵や非情の運命に挑む姿に、もう惚れきってしまった。
ファンタジーを縦糸に、歴史戦記が紡がれ織られていくストーリーは圧巻。
丁寧に構築されていく歴史と、剣と魔法とドラゴンの世界が違和感なく融合しており、歴史物、戦記物好きな私の、もうツボ押しまくりの作品である。
むろん、JUNEではない。ないのだが、主人公アシュラウルの懊悩、葛藤、彼を愛する叔父神クウィル・ヴォルとの確執、ダリュワーズの執着など、JUNE的要素が秘められている。無論それなりのシーンもあったりして、邪まな読者(私)の心をくすぐる。そのうえ美貌の殿方が揃っているとなれば、何をか言わんや、というものである。
シリーズを刊行していた大陸書房なき後、どうなってしまうのかとファンをヤキモキさせたが、中央公論社より新たに書き下ろしとして出版された。
完結までになんと10年の歳月を要するも、ジュブナイルの大陸版と、大人の読者を意識した中公版と、ファンとしては2度楽しませていただいた。
余談だが、歴史を構築していく作品に私が弱いことに気づいたのは田中芳樹氏の「銀河英雄伝説」だった。
どうやら私は、歴史という壮大な流れに巻き込まれ押し流され翻弄される人間を描いたものに弱いらしい。ちなみに「銀英伝」は同人煩悩に火のついた作品だった(笑)。 |