月の砂漠殺人事件(上・下) 1997年/ムービック・GENKI NOVELS/ 2004年09年 ダリア文庫(フロンティアワークス)再販
▼内容(本カバーより抜粋)
「あんた、誰?」再会した幼馴染の箕輪夏彦は七瀬瑞貴のことを覚えていなかった。それ以来夏彦を避けていた瑞貴だったが、ひょんなことから一緒に旅行をするハメに…。旅館に到着した4人は、その主人である美青年涼也と出会う。心近づけていく涼也と夏彦に苛立ちを抑え切れない瑞貴。そんな時、旅館で密室殺人が起きる。渦中にある涼也と夏彦との間に流れる甘やかな空気に、瑞貴は苦しいくらいの切なさを感じて初めて恋を自覚する。縺れた心と事件の行方は――!?
▼書評
人はなぜ人を理解したいのだろう。なぜ自分を理解してほしいのだろう。それはたぶん、人間が孤独を知る動物であり、孤独であることに弱いからかもしれない。相互理解を求める心理とは、相手に理解され認められることで、自分自身の価値を自分が認識することだろう。それゆえ、すれ違って苛立ったり、理解を求めて足掻いたり落ち込んだりするわけで。
このシリーズは、そんな自分探しに一番多感な高校生という年代を中心に据えて、相互理解にいたるまでのすれ違いと足掻きをテーマにしている。
家族という守る相手がいることに自分の存在意義を求める夏彦や涼也も、年月を経て再会したものの相手の変化に戸惑い苛立つ瑞貴も、求めるのは相互理解だ。
だが「相手を守る」ことで自己完結させてしまっている夏彦や涼也に対して、瑞貴は苛つきながらも、相手を貪欲に理解しようとする。理解し理解されたいと頑張る瑞貴の、がむしゃらな足掻きはいっそ清々しい。その足掻きは、やがて夏彦や涼也の「守りたい症候群」にも波紋を投げかけるのである。殺人未遂事件はどちらかというと、そのための道筋をつける舞台装置のような役割り。推理自体は簡単だが、哀愁おびた「月の砂漠」のメロディーが印象深い。
同シリーズ作品に、『誰もわるくない』『キーワードは雨』がある。
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