DESPERADOシリーズ/光風社出版
| 後に 光風社出版クリスタル文庫(発行:成美堂出版)
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〔第1部〕
DESPERADO 1 『時が過ぎゆきても』 (1991年)
収録作/ AS TIME GOES BY/WILL YOU LOVE ME TOMORROW
DESPERADO 2 『タイトル サマータイム』 (1992年)
収録作/ SUMMERTIME/DANNY BOY
DESPERADO 3 『鎖の封印』 (1993年)
収録作 / BALL AND CHAIN/HOME AGAIN
DESPERADO 4 『メルセデスベンツ』(1993年)
収録作/ MERCEDES BENZ
〔第2部〕
DESPERADO 5 『オール・イズ・ロンリネス』(1997年)
収録作/ ALL IS LONELINESS
DESPERADO 6 『心の欠片(かけら)』(1999年)
収録作/ PIECE OF MY HEART
▼シリーズ書評
作品を書き出してみて気づいたのだが、このシリーズとのお付き合いは10年にもなっていた。カバーをかけてあるが、何度も読み返したため、本の閉じしろの糸が緩んでしまった巻もある。それでも未だに追っかけをしている。
キャラクターが魅力的であり、心理描写が丁寧に描かれていること、そして深みや広がりを次第に見せていく巧みなストーリー展開に、ついつい引き込まれてしまうのだ。罪作りなシリーズである(笑)。
デスとあだ名される元刑事のさえない私立探偵クラークと、黒髪と緑の瞳の美貌の青年アンソニー(トニー)のふたりが、イーストリバー市という架空都市の谷間に生きる人々の哀歓と、そこに展開される数々の事件の真相を追求してゆくミステリ小説(というよりハードボイルドかな)。
ボタンをひとつ掛け違えたための悲劇というのだろうか。そこから事件は起こる。その根底にあるのは愛だ。それがどんなに歪んだ愛情でも。
柏枝氏の描く人間はみんな傷を負っている。愛に飢え、痛みに耐えかねて事件を起こしてしまう哀しい人間ばかりである。 そしてまた事件を追う人間も、心に深い傷を負ってる。 しがない探偵デス(クラーク)も、貧しさゆえ生きる為に男娼をしていた過去を持つトニーも、そしてゲイバーの女(男)たちや、殺人を犯してしまう人間も、深い深い傷を負っている。
| 生きていくことは辛いこと――それでも懸命に生きていく。いつかは幸せに
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彼らは互いの傷や重い過去を抱えながらも、懸命生きていこうとしている。
そして様々な哀しい事件を解決していきながら、デスとトニーの関係もすこしずつ変わっていく。いつか別れる時がくる――どこか刹那的だったトニーも、やがて2人の未来を考え、大学に通い始めるなど、前向きに歩き出す。 それに比べると、物語がデスの視点で書かれており、また彼が大人である分、内相的かもしれない。1度は社会からドロップアウトしてしまったデスは、事件の度に彼は自分の過去と向かい合い、傷ついている。暗い男である。だが、
| 「トニーがオカマなら、俺もオカマだ。さあ、俺をオカマだと言ってみろ」
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なんて言いきれちゃう男気のある奴なのだ。
事件が解決しても、ハッピーエンドとはいえない。むしろ真実が曝されることで傷つき、苦悩することになるような、ほろ苦い結末へと導かれる。
この小説の主要な登場人物には悪人はいない。いるのは、誠実に懸命に生きている普通の人間たちだ。このシリーズの魅力は、そんな作中人物に対する慈愛に満ちた作者の視線にある。
彼らの切ないほど深い闇に触れてしまうにもかかわらず、それでも読後感には救いがある。 ほんのりと心が温まり、癒されている自分に気づくのである。 いわゆるBLではない、大人の恋愛物がお好きな方にお薦めの、極上のJUNEである。
★DESPERADO 4 『メルセデスベンツ』までは文庫版で出版されているので、そちらの方が入手しやすいと思います。 |