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柏枝真郷(かしわえ まさと)


雑誌JUNE「小説道場」に投稿。道場主 中島梓氏の門弟となる。道場主評によると結構問題児だったらしい(笑)。
1991年、光風社出版より『時が過ぎゆきても』(DESPERADOシリーズ)でデビュー。
ミステリやハードボイルドな作品が多い。
以来追っかけをしているが、ボーイズラブ系の作品が量産される中、JUNEという特別な響きの余韻にじんわりと浸ることができる作品が多く、嬉しい…♪
作品は一言で言うと、重い。コミカルな作品にも根底に人間の哀しさがある。
人間のダークサイドな部分の心情を透徹な筆致で描いているが、感傷に流されず、不思議と乾いた感じがする。
代表作に『DESPERADO』シリーズ、『硝子の街にて』シリーズ、『厄介な連中』シリーズなど。


■ DESPERADO
■ 硝子の街にて 






DESPERADOシリーズ/光風社出版
後に 光風社出版クリスタル文庫(発行:成美堂出版)


〔第1部〕
DESPERADO 1 『時が過ぎゆきても』 (1991年)
           収録作/ AS TIME GOES BY/WILL YOU LOVE ME TOMORROW
DESPERADO 2 『タイトル サマータイム』 (1992年)
           収録作/ SUMMERTIME/DANNY BOY
DESPERADO 3 『鎖の封印』 (1993年)
           収録作 / BALL AND CHAIN/HOME AGAIN
DESPERADO 4 『メルセデスベンツ』(1993年)
           収録作/ MERCEDES BENZ
〔第2部〕
DESPERADO 5 『オール・イズ・ロンリネス』(1997年)
           収録作/ ALL IS LONELINESS
DESPERADO 6 『心の欠片(かけら)』(1999年)
           収録作/ PIECE OF MY HEART


シリーズ書評
作品を書き出してみて気づいたのだが、このシリーズとのお付き合いは10年にもなっていた。カバーをかけてあるが、何度も読み返したため、本の閉じしろの糸が緩んでしまった巻もある。それでも未だに追っかけをしている。
キャラクターが魅力的であり、心理描写が丁寧に描かれていること、そして深みや広がりを次第に見せていく巧みなストーリー展開に、ついつい引き込まれてしまうのだ。罪作りなシリーズである(笑)。

デスとあだ名される元刑事のさえない私立探偵クラークと、黒髪と緑の瞳の美貌の青年アンソニー(トニー)のふたりが、イーストリバー市という架空都市の谷間に生きる人々の哀歓と、そこに展開される数々の事件の真相を追求してゆくミステリ小説(というよりハードボイルドかな)。
ボタンをひとつ掛け違えたための悲劇というのだろうか。そこから事件は起こる。その根底にあるのは愛だ。それがどんなに歪んだ愛情でも。
柏枝氏の描く人間はみんな傷を負っている。愛に飢え、痛みに耐えかねて事件を起こしてしまう哀しい人間ばかりである。
そしてまた事件を追う人間も、心に深い傷を負ってる。
しがない探偵デス(クラーク)も、貧しさゆえ生きる為に男娼をしていた過去を持つトニーも、そしてゲイバーの女(男)たちや、殺人を犯してしまう人間も、深い深い傷を負っている。

生きていくことは辛いこと――それでも懸命に生きていく。いつかは幸せに
なれるのかもしれないから。

彼らは互いの傷や重い過去を抱えながらも、懸命生きていこうとしている。
そして様々な哀しい事件を解決していきながら、デスとトニーの関係もすこしずつ変わっていく。いつか別れる時がくる――どこか刹那的だったトニーも、やがて2人の未来を考え、大学に通い始めるなど、前向きに歩き出す。
それに比べると、物語がデスの視点で書かれており、また彼が大人である分、内相的かもしれない。1度は社会からドロップアウトしてしまったデスは、事件の度に彼は自分の過去と向かい合い、傷ついている。暗い男である。だが、

「トニーがオカマなら、俺もオカマだ。さあ、俺をオカマだと言ってみろ」

なんて言いきれちゃう男気のある奴なのだ。

事件が解決しても、ハッピーエンドとはいえない。むしろ真実が曝されることで傷つき、苦悩することになるような、ほろ苦い結末へと導かれる。
この小説の主要な登場人物には悪人はいない。いるのは、誠実に懸命に生きている普通の人間たちだ。このシリーズの魅力は、そんな作中人物に対する慈愛に満ちた作者の視線にある。
彼らの切ないほど深い闇に触れてしまうにもかかわらず、それでも読後感には救いがある。
ほんのりと心が温まり、癒されている自分に気づくのである。
いわゆるBLではない、大人の恋愛物がお好きな方にお薦めの、極上のJUNEである。

★DESPERADO 4 『メルセデスベンツ』までは文庫版で出版されているので、そちらの方が入手しやすいと思います。





・・MINI DATA・・
クラーク・デラウェア /「DESPERADOシリーズ」主人公/ 11月1日生/O型/身長192cmと、かなりののっぽさん/通称の「デス」はDESPERADO(ならず者)のDESから/シリーズ開始当時31歳/枯れ草をはりつけたようなボウボウ髪/瞳は灰青色/顔貌は餓死寸前の狼さんといった感じらしい/もと刑事だが当時から一匹狼的要素高し/現在はしがない私立探偵にして、トニーの恋人/そのトニーにして「ぐーたらでずぼらでそこつでがさつで鈍感で馬鹿」と言わしめるほど……である/家事一般についてはただいま修行中/女房役の苦労が目に見えるようだ(笑)/強度の心配性で、できればトニーを箱に入れて大切にしまっておきたい/だんなにしたらちょっとウルサイかも/亡くなった奥方の義父であり、国一番の弁護士(本人評)のジェローム・スウェイン に頭が上がらない/もちろんベタ惚れのトニーにも頭が上がらない/ほとんど甘味嫌悪症である/煙草はケント/ヘビースモーカー/趣味はトニーを守ること/世界はトニーを中心に回っている、が信条である/そんな彼が私は好きだ。
「トニー、おまえはいい伴侶だよ」
何度も雨が降って何度も地を固めてきた最強の恋人同士だよね。
でも柏枝先生だから…一抹の不安が……(ドキドキ)
「……ああ……あんただ……」
アンソニー・フォーセット /本名アーサー・ウエルス/通称トニー/12月25日生/A型/身
長180cm/シリーズ開始当時24歳/つややかな黒髪/瞳は緑/クリスマス生まれのせいか乳白色の雪のようなお肌をしている……羨ましい/シリーズ中に大学に進学/法学部に籍をおく/人を慰めるのが特技/存在だけで奇跡のような健気な子/なのになんの因果で「ぐーたらでずぼらでそこつでがさつで鈍感で馬鹿」なデスに惚れてしまったのか/アバタもえくぼってヤツか?/恋とは理不尽なものだとちらりと思う/デスの喫煙量とアルコール摂取量に目を光らせている/トニーを箱入りにしておきたいデスとも攻防中。見かけによらず男気があるってものだろう/惚れた弱みでデスに対してはほとんど母性愛を発揮している/いつか弁護士になってデスを顎で使うのが野望/現在でも充分尻に敷いているけどね(笑)/家事全般のエキスパート/こんな嫁なら私もほしい(笑)。

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硝子の街にてシリーズ /講談社X文庫(ホワイトハート)


硝子の街にて /1  『窓-WINDOW』 (1996年4月)
硝子の街にて /2  『雪-SNOW』(1996年10月)
硝子の街にて /3  『虹-RAINBOW』 (1998年1月)
硝子の街にて /4  『家-BORROW』 (1998年5月)
硝子の街にて /5  『朝-MORROW』 (1999年6月)
硝子の街にて /6  『空-HOLLOW』(2000年6月)
硝子の街にて /7  『燕-SWALLOW』(2001年2月)
硝子の街にて /8  『宵-AFTERGLOW』 (2001年6月)
硝子の街にて /9  『渦-BILLOW』(2001年11月)
硝子の街にて /10 『烏-CROW』 (2002年3月)
硝子の街にて /11 『矢-ARROW』 (2002年07月)
硝子の街にて /12 『禁-DISALLOW』( 2002年11月) 


シリーズ書評
ミステリとしての味わいもさることながら、旅行会社でバイトをする伸行(ノブ)と、その幼馴染みであり、NY市警察本部殺人課警部補シドニーの関係が少しずつ変化していく過程が丁寧に描かれ、純愛小説としても楽しめる。

柏枝作品らしく、それぞれの犯罪には哀しい動機が秘められている。
一般的に「人は何度でもやり直しができる」といわれるが、世の中には、どうしても償いようのない過ちや、癒されたようにみえても積もってゆくだけの痛みがある。ほんのボタンの掛け違えともいえる齟齬から引き起こされてしまう事件は、人間の業が滲んだ切なさがある。
少しずつ事件関係者の内面を覗き、自分の人生を見つめ直しながら、その哀しい心理にシンクロしてしまうことで、ノブは犯人に行き当たる。

ティーンズ・ノヴェルということもあって『DESPERADO』シリーズに比べるとライトで、空間の中に流れている風の感触というか、乾いた空間感覚で重く沈鬱になりがちなテーマも読みやすい。また、ゲイの描き方も、ティーンズ・ノヴェルにありがちなモラトリアムな関係ではなく、NYという社会背景を下敷きにマイノリティな部分もさり気なく描かれており、好感が持てる。

己を過小評価しがちなノブは、シドニーの負担になることを心配するが、その実、ノブを喪失することへの怖れはシドニーの方が大きい。心に深い闇を抱える彼にとって唯一失いたくない存在が、シドニーに絶対の信頼を寄せるノブだ。

「おまえもさ――もっと寄っかかっていいんだぜ。
他の面で、おれもおまえに寄りかかっているんだから」

おニブのノブには自覚できなかったが、シドニーはさり気なく孤独を吐露している。
2人の関係を端的に言い表しいてるのは、シドニーとコンビを組む同僚のヘンリーと、彼の奥方のケートかもしれない。
ヘンリーは、シドニーにとってノブは「精神安定剤みたいな存在」と評し、ケートは「最後の拠り所みたいなもの」と認識する。

「もしも世界じゅうの人がシドニーに背を向けても、ノブだけは信頼してくれるような
(略)たとえ失敗したり、やりすぎて間違いを犯しても、ノブだけは、きっと理解して
くれるだろうと思えるんじゃないかしら」

きっと誰もがそういう相手を求めているだろう。でも逆に、そこまで求められるとしたら――相当の精神的な強さがないと支えきれないし、プレッシャーになってしまうかもしれない。
ノブのすごいところは、自覚のないままにそれができてしまうことなのだな。そして、一見頼りなく見えるノブの、他者をあるがままに受け入れられる、しなやかで強靭な精神に気づかされるのだ。自分をそのままで受け入れてもらえるほど心地のよく、力強い存在はない。これはもう、シドニーじゃなくても手放せないってものだ。

ようやくノブがシドニーへの想いを恋と自覚しても、シドニーはさらに葛藤する。そのためにはゲイというハードルを超えなければならない。それは2人の関係だけではなく、社会的に大きなリスクを負うことでもある。
だからこそシドニーは煩悶するのだ。ゲイということで自分が負ってきた痛みをノブに味あわせることを怖れて。

紆余曲折を経て、ようやく恋人として向かい合う2人。
愛しい人に側にいて欲しいと思うのは恋する者の自分勝手な傲慢なのか、甘えなのか。
互いに求め合う相手でも頼り切ることを潔しとしない男としての矜持もある。
そしてノブは、まだマイノリティの本当の痛みを知らないだろう。何といっても、彼の周囲は理解ある人ばかりで恵まれた環境にある。
この作品が対象とするティーンズから時を経た今、「そんなことありえないよ」と呟いてしまう自分が少々情けないよな寂しいよな(笑)。

5巻目『朝-MORROW』でシドニーがノブに「I LOVE YOU」を告げたあたりから、どちらかというとミステリよりも、ノブがシドニーへの想いを自覚していく心理描写、湾岸戦争に従軍したシドニーの負った心の深奥や、ゆっくりと進行していく2人の関係の方に重点が置かれているように思う。でも、決してミステリに手を抜いているわけではないから、誤解なきよう。「ピュア」なラブストーリーとしても心地よく酔わせてくれる。

余談であるが、かつて某大新聞がジュブナイル向け作品について、
「――生活はあるが生理はなく、苦しみはあるが苦悩はなく、甘さはあるが甘美ではなく、明解ではあるが明晰ではない、情感はあるが情熱はなく、反抗はあるが反逆はない――」
と論じていた。私の勘ぐりかもしれないが、この評者はたぶん日本の風土から生まれた小説特有の湿った暗さに親しんできたオジサン(オバサンかもしれないが)なのだろうと思う。ティーンズ・ノヴェルにあるこんな偏見も、この作品を読んだら認識新たにするのではないだろうか。あ、それ以前に、乾いた風の感触を楽しめるかが、問題かな。

それからもう一つ。アメリカの軍隊制度とデザート・ストーム(湾岸戦争の作戦名)について詳しい知識がある人には、陸軍士官学校出身のシドニーの戦争体験については違和感があると思う。その辺りはフィクションとして割り切らないと辛いかもしれない。
個人的には、ティーンズ向けのX文庫になぜ紛れ込んでしまったのだろうという感が強く、大人が充分楽しめる作品である。





・・MINI DATA・・
 シリーズ12巻目 『禁-DISALLOW』現在
広瀬伸行/NYマンハッタンはチェルシーのちょいと個性的なアパート在住/8月20日生/27歳/身長・177cm/足サイズ・27cm/B型/童顔のため10代に間違われることもしばしば/シドニーと幼馴染み/恋愛に対しては天然記念物なみにおぼこい/そのためにシドニーには苦労を強いているのだが、気づいているのかいないのか(たぶん気づいていないだろう)/往生際悪く、7巻目をもって親友以上恋人未満を貫いていたが、8巻目にして恋人への一歩を踏み出した/純情可憐なお姫サマも今は昔。最近ではシドニーをたじたじさせるまでに成長した/が、それも「おぼこさ」ゆえの怖いもの知らずの感あり/恋愛事にはおにぶだが、意外にもシリーズではなんと!名探偵ぶりを発揮している/旅行代理店アルバイトから(渋々ながら)正社員に昇格/両親は日本人だが理由あって本人はアメリカ国籍/煙草はPM(フィリップモリス)がお気に入り。
「シドニーはシドニーだよ」
もどかしい2人だから、まだまだ何かありそうな予感……
「おれは、とんでもないガキに
惚れちまったらしい」
シドニー・ホプキンス/伸行と同アパートの隣室在住から10巻をかけて同棲にこぎつけた忍の男/めでたくも子供の日、5月5日生/30歳/身長・189cm/足サイズ・29cm/O型/金髪碧眼の別嬪サン/(擦り切れた)皮ジャンとジーンズの日常着で、田近画伯に「まんまゲイじゃん」と言わしめた/かつて恋人あり/そのテクをなぜノブに使わん?! と読者をヤキモキさせていたが、岩をも通す一念で初恋を成就させる。やったね!/何よりもノブに甘いのは惚れた弱み、だと思ってやろう/陸軍経由NY市警察本部殺人課警部補/ということで、ノブとは圧倒的な体力に差がありそうなで翌日に差し支えないかと(ごにょごにょ…)/心配するのは余計なお世話ってやつね(笑)/黒髪フェチの気あり/湾岸戦争に従軍。その頃の話をぜひとも知りたい/で、すみかのツボにハマった男♪/煙草はマルボロ/ヘビースモーカー

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