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松本清張 (まつもと せいちょう)







かげろう絵図(上・下)

初出/昭和33年(1958年)5月17日〜34年10月20日・東京新聞連載
2004年8月/文春文庫


このところドラマ化などで清張作品がちょっとしたブームらしい。清張作品は結構読んでいるのだけど、そういえば清張さんの時代物は読んだことないなあ、ということで読んでみた。

天保11年(1840年)、江戸城大奥の満開の桜見で起きた事件から始まる。12代将軍・徳川家慶の時代であるが、将軍職を退いた家斉(いえざね)が「大御所」として実権を握っている。この方、徳川将軍史上、一番多い側室を持ち、54人の子をなした艶福家である。その大奥で権勢を振るっているのがお美代の方。
権力のあるものには当然それを私物化し、甘い汁を啜ろうって輩がいる。それがお美代の方の養父で隠居の身である中野播磨守清茂と、その腹心の側衆・水野美濃守忠篤、西丸老中・林肥後守忠英たちである。彼らは家斉とお美代の方の娘が産んだ男児を、13代将軍に擁立すべく陰謀を張り巡らす。
家斉に実権を握られたままで影が薄い12代将軍・家慶としては面白くない。
家慶側に立って、家斉側追い落としを狙う反対勢力の中心が本丸老中の水野越前守忠邦(石翁)。寺社奉行・脇坂淡路守安重や、熱血じじいの旗本・島田又左衛門が、隠密裏にそれを助けていく。
いわば権力抗争であるが、そこに大奥を絡ませることで、物語は複雑に展開していく。

互いの陰謀が交錯し緊迫する中、ついに家斉が亡くなり、一度は勝者と見えた石翁らの陰謀は老中の画策により潰えてしまう。お美代の方は大奥を追い出され、石翁たちも権力から転落する。
老中・水野忠邦は、江戸の民衆に喝采を浴びながら、権力を握り改革を実行していく。
だが、彼もまた、喝采を送ったはずの民衆に石礫を投げつけられることになる。

権力という欲望に翻弄される者、転落していく者、権力から遠ざかることで自由な生き方を選択する者、それぞれの生き様が対立する。そこにあるのは観察者としての清張氏の冷徹な目だ。
TVドラマの大奥を見ると、その仕組みや生活などがかなり大雑把に(よく言えば分かりやすく)描写されているが、そこは清張作品だけあって、大鉈を振るってある程度の枝葉をおとしつつも絢爛たる大奥の光と影を丁寧に描写しており、迫力すら感じれる。
ミステリ的要素もあるが、歴史小説としても面白い。上下巻と分厚いうえに重厚な作品だが、ストーリー展開が早いので、ハラハラしながらあっという間に読めてしまう。




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