2005年5月/光文社
横山秀夫氏が15年前に書いた処女作。1991年(今はなき)サントリーミステリー大賞佳作になったが、刊行されなかった幻の作品。
平成2年12月、警視庁にもたらされた一本のタレ込み情報。15年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、実は殺人事件だった―しかも犯人は、教え子の男子高校生3人だという。時効まで24時間。 事件解明に総力を挙げる捜査陣は、女性教師の死と絡み合う15年前の「ルパン作戦」に遡っていく。「ルパン作戦」―3人のツッパリ高校生が決行した破天荒な期末テスト奪取計画には、時を超えた驚愕の結末が待っていた…。(本書カバーより)
著者を知らずに読んだら、横山秀夫さんとは気づかないかもしれない。現在の端正な文体と比べるととても饒舌だ。 いきなり飛び込んできた告発によって、事件は唐突に脚光を浴びる。 時効まで24時間――刑事たちは人探しに駆けずりまわり、取調室では参考人が過去を回想し、15年前の鑑識結果は今になって大きく揺らぐ。 取調室の張り詰めた緊張感、時効を前に全力を尽くそうとする刑事たちの迫力、殺風景な取調室の背景に鮮やかに切り込む回想シーン、少年たちのツッパっているけどウブい言動の数々。それらが交互に出てくる雰囲気は独特だ。 取調べを受ける当時の高校生たちの過去の物語の中で積み重ねていた推理は、ストーリーの進行とともに過去の事実が現在の回想とリンクしていく。 また、三億円事件を一つの象徴のように扱い、時代の転換点とする見方は興味深いが、それをストーリーに組み込むのには無理を感じる。そのため、最期のどんでん返しは蛇足っぽいが、元々サントリーミステリー大賞がドラマ化することを前提にしていたことを考えると、劇中の華っていう扱いだったのかもしれない。
ツッパリ高校生の描き方が少々ステレオタイプだが、それが上手く昭和という時代の雰囲気を醸し出しているようだ。今や大人になってしまった15年前の少年たちが語るやんちゃで無鉄砲な日々への、「もうあの頃には戻れない」という郷愁が全編を貫き、ほろ苦い青春小説にもなっている。
補足として、1991年のサントリーミステリー大賞受賞作品は ドナ・M・レオン氏の『死のフェニーチェ劇場』となっている。
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