発行/小学館
『ダレン・シャン』シリーズは、過ぎた好奇心のせいで半バンパイアになってしまった少年・ダレンを主人公にする、全12巻にわたるダーク・ファンタジー。 外伝が1巻ある。
作者であるDarren Shanと物語の主役の少年の名が同じなので、てっきりペンネームだと思っていたが、ダレン氏のオフィシャル・サイトによると、本名をDarren O'Shaughnessyといい、どうやら本名を略したものらしい。
1巻で友達の命を救うために半ヴァンパイアになったダレン・シャン。2巻でダレンは異形の者たちを集めたサーカス一座に加わる。 このサーカスの発想が圧巻だ。蛇少年、狼男、髭がのびる女性などなど、不思議な世界が実在するかのようにグロテスクなほど生々しく描写されている。 サーカスの芸人や周囲の人間との交流がブラックなユーモアを塗しながら展開。親代わりともなるバンパイア氏のとぼけた味もいい感じ。
人間の心を捨てられないゆえのダレンの苦悩や悲しさ寂しさが、グロテスクな描写を交えて描かれる一方、「いや、もどれない。過去は、過去。いまはもう、後ろをふり返らないに限る」 と、運命を、たくましく前向きに受け入れていく。 異形な者たちと親子や兄弟のような友情に結ばれ、やがてダレンはバンパイア王国を存続させるべく、次々に襲う試練に立ち向かうことになるのだが、序盤と中盤、終盤と、物語の印象が変わっていく。 シリーズの構成自体、3作ずつ4部作となっており、序盤はダレンが半バンパイアとなった運命を受け入れるまで。中盤以降は半人前のダレンがバンパイヤ族に受け入れられるまでの試練や敵対するバンパニーズとの戦争、そして終盤はバンパニーズ大王との対決と、戦闘シーンが続くスピーディな展開となっていく。
吸血鬼伝説といい、怪しげなサーカス一座といい、古色蒼然とした題材なのでついうっかりしてしまうが、舞台は現代。 扉裏には「作品中の描写に対し、不快の念を抱かれる…」と断り書きされているように、血や肉に対するグロテスクで残酷な描写が多々ある。それなのに読み出したら止まらない魅力がある。 一つには、異形の世界を扱いながら登場人物の反応や考え方、行動が自然であること。荒唐無稽なファンタジーだからこそ、この感性がないと読者が置き去りにされてしまう。 また、善悪を描きながらそれだけで人物を色分けしていない。それぞれの立場をないがしろにせず、自然に主張させることで、一人称で語られる物語に多角的な視点を持たせている。 もちろん、ダレンが半バンパイヤとなっても保ち続ける人間的な葛藤が物語を牽引し、また、感動を与えるのだが。
ダレンはけっして良い子ではないし、ほかのキャラクターもインモラルな印象が強い。 児童文学にありがちの教訓じみていない。 しかし悲劇的な運命に立ち向かい、ダレンが大人に成長していく様子は、このシリーズのターゲットである感性の柔らかい少年たちに何かを感じさせるだろう。児童書としてはグロテスクで残酷な表現も多いので、好みは分かれるだろうけどね。
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