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カラシニコフ」松本 仁一
ブッシュ妄言録」フガフガ・ラボ【編】
標的は11人-モサド暗殺チームの記録」ジョージ・ジョナス






標的は11人-モサド暗殺チームの記録ジョージ・ジョナス

1986年7月/新潮文庫



アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)ノンフィクション部門受賞作。当事者の告白をもとに、ジャーナリストの著者によって構成された息詰まるドキュメント作品。スピルバーグ監督の映画「ミュンヘン」の参考図書にされている(原作ではないので念のため)。

ミュンヘンオリンピック開催中の1972年9月、PLO(パレスチナ暫定自治政府)の過激派「黒い九月(Black September)」に所属するテロリスト8人によって、イスラエルの選手と役員11名が殺害された。
イスラエルのゴルダ・メイア首相は、モサドのエージェントであるアフナーに、ミュンヘン事件の首謀者および関与したテロリスト11名の暗殺の極秘指令をだす。アフナーをチームリーダーとして、武器、爆薬、移動手段、文書偽造のスペシャリストからなる5名の暗殺チームが編成される。

トップの地位にいるテロリストを殺害することで、グループの気勢を殺ぐことができれば、次のテロ活動を躊躇させることができるかもしれない。殺人=反テロ行為を自分の中で正当化しつつ、暗殺チームは西ヨーロッパに潜行し、標的9名を暗殺。彼らは完璧な任務遂行と自負していた。
だが、3年近く強いられた緊張や心労、そして依然としてテロが繰り返されている現実に、彼らは任務の意義を見失っていく。さらに他のチームの失敗により、自分たちもPLO側に暗殺されるかもしれないという恐怖に怯えるようになる。事実、アフナーのチームの存在も敵方に知られ、3人の仲間を喪ってしまう。
作戦終了の通知を受けて自国に戻ると、意外なことにアフナーは英雄として扱われる。
次の任務も用意されていたが、アフナーはニューヨークで妻子との平穏な生活を求めて、モサドからの辞任を求める。だが、モサドの工作管理官(ケース・オフィサー)は、アフナーの銀行口座の3年間の報酬を凍結し、執拗に復帰を促がす。

本書を通じて明らかにされるのは、途切れることのないテロとその報復(VENGEANCE)という繰り返しの構図だ。
自爆攻撃による犠牲者の何倍もの市民を殺しても、イスラエルはテロ国家と呼ばれない。ほんの少しでも占領地を返せば、国際社会は「英断」と評価する。この不公平感はなんだろう。
「人口増で入植地がもっと必要」という主張にどれだけ説得があるのか。それでもテロ組織が悪いのか。
けっしてテロルを支持はしないが、「占領が終われば闘争も終わる」という因果関係ははっきりしている。つまり、暗殺チームの非合法な暴力工作は、テロルと同根なのだ。
水面下で繰り広げられる秘密情報工作や組織の冷酷な側面をも描き、薄ら寒くなってくる。

報酬を取り上げられ無一文になったアフナーだが、現在は名前を変えて、妻子とともに合衆国に住んでいるのだそうだ。
巻末の「取材ノート」ではアフナーの告白の真偽を調査し、検証している。



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イラクの中心でバカとさけぶ橋田信介

2004年1月/アスコム


昨年イラクで亡くなった戦場カメラマンのイラク戦争レポートである。報道からはジャーナリズムに命を捧げた熱血漢というイメージだったが、なかなかどうして、飄々とした食えないオヤジぶりが素敵な方だ。

「ヒマだなー」
「戦争でも、起こらないかなー」
「アメリカは本当にやるのかなー」
「アメリカはアホだから、ひょっとして、やるんじゃーねーの」
「やるんだったら、早めにやってほしいなー」
本書はこんな不謹慎な会話から始まる。
考えてみれば、戦争写真家は戦争がないと仕事がないわけで、ジャーナリストとしての使命感という熱血だけでその矛盾は埋められない。橋田氏の飄々とした生き様はそんな諦念の裏返しであったのかもしれない。彼は、頑固な職人のように愚直なほど「仕事」に向き合う。

人のビザをカラーコピーしてパスポートに貼りつけてイラクに入国するも(通用してしまうのがオソロシイ)国外退去。今度はムジャヒデン(イスラム義勇軍)と嘘をついて再入国。 組織としてのマスコミが安全圏に撤退するなかで、戦場の映像を流すために「命なんてものは、使うべきときに、使わないと意味がない」と、経験とサイコロに運命を託して行動する橋田氏とその相棒氏。
CNNがFOXに負けた理由、国連施設が攻撃された理由など、日本や海外の大手メディアの情報からは見えてこない事実をさらりと暴露しながら、その姿勢から緊張感は迫ってこない。
それでいてズンと重いものが投げられる。

 「テロリストはまだまだたくさんいます。落とした爆弾の数だけ、
 新しく生まれたのですから」

まさにこれが、世界からテロルが消えない真実だろう。頭がいい(はず)の世界のトップたるお歴々がなぜこれを繰り返すのか――。

「この戦争で稼いで歯医者に行こうなー」

これを書いているうちに切なくなってきちゃったなあ……。
ただ運命の仕打ちを恨めしく思いつつ――謹んで哀悼の意を表します。



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カラシニコフ
松本 仁一

2004年7月/朝日新聞社


タイトルの「カラシニコフ」とは通称「AK47」と呼ばれる自動小銃の名前で、1947年にロシアのミハイル・カラシニコフ氏によって設計・開発された。AKは「アフタマト・カラシニコワ」(カラシニコフ自動小銃)の頭文字。世界の紛争地域には必ずこの銃が存在する。

アフリカ・シエラレオネの元少女兵へのインタビューから本書ははじまる。
自分の命を守るために三人を殺した少女、コツコツ貯めた金でやっとカラシニコフを買って職を得た少年。夜、眠りについていた街をいきなりゲリラに襲われ、連れ去られた数百人の子供たちは、10歳の少女達が全員レイプされ、奴隷化され、無理矢理ゲリラに仕立て上げられた。殺した者の目で語る個々の悲劇は、死者の数を統計でみるよりも生々しく、凄惨だ。これが今も続く世界の現実である。

しかし本書は悲惨な現実だけを連ねたものではない。
「希望の山」や「バッテリーセンター」のような地域の治安回復運動、そしてソマリランドの銃器の取り締まりの成功と教育への取り組みを取り上げ、希望もまた、垣間見せている。

以前――たぶん1994、5年頃、今は廃刊となってしまった雑誌『AERA』にミハイル・カラシニコフ氏のインタビュー記事があった。はっきりとは覚えていないのだけど(私のノートのメモによると)、子供時代にサビだらけのブローニング拳銃を修理していて、祖国を守る武器の必要性を感じ、銃の設計をしたとある。本書でもカラシニコフ氏に直接取材しているが、内容はあまり変わらない。おそらく今までも何度となくインタビューを受け、同じことを語ってきたのだろう。
また、小説家フレデリック・フォーサイス氏のインタビューにある「失敗した国家」では、自治体としての国の体をなしていない国を失敗した国家とし、その基準は経済ではなく、治安維持と教育への無関心だという。
カラシニコフという銃を縦軸に構築された国家論であるが、取材する側に偏りはなく、冷静な視点から描写されており、読み応えがある。

冷戦下、ソ連による武器援助として共産主義陣営や発展途上国へ大量に供与され、東欧諸国・中国・北朝鮮でのライセンス生産も加わって、カラシニコフは、今や世界に1億丁が出回っているといわれる。
実際にはアメリカも無制限に、ほぼ無償で米軍が使うM16を供与していたのだが、ベトナム戦争ではM16が錆で弾詰まりを頻繁に起こしたため、前線の兵士はM16を捨て、敵軍から奪ったAK47を使ったのだそうだ。なんたって泥水にどっぷり漬かっても翌日にはちゃんと使えるくらい堅牢、歪んだ銃弾でも対処できるっていうんだから…ゲリラ戦にはもってこいだ。

紛争により国家が破壊されたあとには力による支配しか残らない。その力とは銃であり、中でも丈夫で扱いの簡便なAK47は引っ張りだことなる。
設計者のミハイル・カラシニコフ氏は、さぞかし裕福なのだろうと思っていたら、退役直前に陸軍小将に進級し、年金に色がついた程度で質素な生活を送っているとあったが、現在(84才ながら健在)、民営化されてAKを売るイジマシュ社の設計責任者でもあるいう。
「銃が戦争を始めるわけではない。私は平和がこの地球に訪れるよう願う」――カラシニコフ氏の言葉である。
だが、アフリカやアフガニスタンの少年兵、イラクの武装集団、どの手にもこのAKが握られている。……無常だね。



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ブッシュ妄言録
フガフガ・ラボ【編】

2003年 2月/ぺんぎん書房



ブッシュは幼稚だ。はっきりいってアホである。そんなアホさ加減を証明する本が≪また≫出た。彼の公式なスピーチを下敷きにした、その名も『ブッシュ妄言録』(!)という。
曰く「日米関係は150年間も素晴らしい同盟関係にある」――第二次世界大戦はどこへ行った?
曰く「カナダとメキシコの国境関係が良好だったことはない」(おいおい)
こんな調子で、彼はアホさ加減を堂々と物語っている。
以前から外交関係に弱いと指摘されているが、併記されている英語の原文なぞ読むと自国語である英語にもやや不自由しているようだ。
となると、チグリス、ユーフラテス河に栄えた人類最古といわれるメソポタミア文明とか、バベルの塔があったといわれるバビロニアなどの歴史の重さなんて感じないんだろうなぁ。だからボカボカ爆弾を落とせるんだろうか。
もしかしたらブッシュは歴史どころか、イラクの地理的位置を知らないって噂もまんざら嘘でもなさそうである。
大笑いながら、あっという間に読み終えたので落語本かと思っていたが、ふと、背筋がぞ〜っとしてくるあたり、もしかしたらホラーだったのかもしれない。一粒で二度美味しい素敵な本だ。

ん…? ちょっと待てよ。彼は敬虔なクリスチャンじゃなかったのか? 
「エデンの園」はチグリス、ユーフラテスのあたりにあったと聖書に書かれていたはずだ。それらを無残に破壊するのに、彼は、そして将兵たる「彼ら」は気後れしないんだろか。
んでもって、トップの二人組は北アイルランドで戦後処理を睨んだ会談ときた。
えーいっ、いっそダブリンまで足を伸ばしてIRAとキャッチボールでもしてきやがれっ!てなもんである。

はい、これは心に溜まった鬱憤の発露。はっきり言って嫌味です。ええ、精一杯の嫌味ですともっ!(笑) 2003/4/9【珈琲館より移行】



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イラクの小さな橋を渡って池澤 夏樹 (著)/本橋 成一 (写真)

2003年 1月/光文社



米国の華々しい戦果報告の影で、遠慮がちにイラクの惨い状況が伝えられています。
「もしも戦争になった時、どういう人々の上に爆弾が降るのか」を写真とルポで伝えてくれるささやかな本をご紹介します。

よりによってイラクをめぐる情勢が緊迫する去年の暮れに、小説家と写真家は現地に入った。目的は遺跡の観光だったとか。しかし、ブッシュが『悪の枢軸』と決めた国の、普通の人々が普通に暮らす姿に心を奪われる。

そこには慎ましいながら大量消費文明にはない豊かさが息づいている。
モスクでの祈り、バザールの賑わい、農村で収穫を終えた女、鶏売りのおばちゃん、遊園地で遊ぶ子供たちの輝く瞳、カメラの向こうの恥ずかしそうな笑み。
「食べるものも充分あったし、質も申し分ない」「実に明るい人たちだ。しかもおそろしく親切」で、サダムによる独裁と弾圧が噂は先入観は打ち砕かれ、人々には間もなく戦争になるかもしれないという緊迫感も感じられなかったそうだ。
「この子たちをアメリカの爆弾が殺す理由はなにもない」という言葉に胸が突かれる。
2001年、国連が発表した「経済制裁によるイラクの死者の数、150万人、このうち62万人が
5歳以下の子供だった」という統計数字が他人事ではなくなってくる。

ハイテク兵器の「美しい花火」の下には殺され、負傷し、散り散りになってしまう家族がいて、暮らしがある。イラクの人々の「今」を、池澤さんの落ち着いた静かな文章が伝える。忘れがちな私たちの想像力を刺激し、目覚めさせてくれる、詩集のような本。 2003/4/5【珈琲館より移行】



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