黒いトランク 初版バージョン | 鮎川哲也(あゆかわ てつや) |
1956.7 講談社/1959.8 ロマンブックス/1974.9 角川文庫/1977.12 別冊幻影城/ 2002.1 光文社文庫・鮎川哲也コレクション/2002.1 創元推理文庫
ミステリを覚えたての中学時代の一時期、夢中になった作家さんの1人である。
平成14年9月24日逝去され、ふと懐かしくなって買ってみた(持っていた本はみんな手放してしまったので)。
今回入手したのは光文社文庫版、長い間入手困難だった「幻の名作」の初刊ヴァージョン。
最も普及した角川文庫版や、未読だが決定版として2002年に刊行された創元推理文庫版との違いも分かりやすく解説されている。
東京で死体詰めトランクが発見され、九州からトランクを発送した男に殺人容疑がかかるが、その男もまた、死体となって発見される。死んだ容疑者の妻でかつての想い人だった女性からの依頼を受け、鬼貫警部が真相究明に乗り出す。
巧妙に偽装された犯行現場、死体を運んだ黒いトランクの行方、真犯人とおぼしき人物が持つ鉄壁のアリバイなど、次から次へと立ちはだかる謎を、緻密な論理の組み立てによって1つ1つ看破していく構成は、本格ミステリの醍醐味。隅々まで行き渡るフェアプレイ精神にも脱帽。
しかも、真犯人が分かってからもなお、黒いトランクにまつわる謎がくすぶり続けるので、最後の最後まで事件の全体像が見えないようになっている。
どんな困難にぶつかろうと、かつて愛した女性のために、そして警察官としての自分の矜持ために決して諦めることなく、真実を求めて闘う鬼貫警部がかっこいい。。
東京と九州を横断する黒いトランクの動き、時刻表を使ったトリックなど、注意して読まなければ混乱してしまう部分もあるが(思わず紙に書き出してしまった私…)、全てがあるべき場所に収まってストーリーが完成した時のカタルシスも大きいので、本格ミステリの歴史を知る上でも読んでみる価値がある。
余談だが、膨大な鮎川作品の中で私が1番初めに読んだ小説は『死者を笞打て』だったと思う。思春期の私には、たぶんタイトルが背徳的でとても印象的だったのだ(笑)。内容は覚えていないのだが何かのパロディ小説だったような微かな記憶がある。大人になった目で、もう一度読んでみたくてただ今探索中である。
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