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このページは、短文の書評をまとめてあります(当サイト比…笑)。
長文の書評と2作品以上の書評は、作家別のページになっています。







やっとかめ探偵団と鬼の栖清水義範

 2005年9月/光文社文庫


名古屋を舞台にした「やっとかめ探偵団」シリーズ。
「やっとかめ」はお久しぶりっていう意味で、漢字では「八十日め」と書くのだそうだ。
「やっとかめだなも、元気にしとりゃあたかね?」=お久しぶりです。お元気でしたか? って感じで使う。
ほっこりしていい感じの名古屋弁だと思うけど、現在ではほとんど使われていないらしい。

この探偵団の構成員は全員お年寄り。名古屋のミス・マーブルこと、まつ尾を中心に、パワフルなおばあちゃん探偵団が事件の謎解きをする。
少々耳が遠かろうと、神経痛が痛もうと、亀の甲より年の功。人生経験に裏打ちされた人間観察には脱帽するしかない。
扱っているテーマは幼児虐待など重いが、おばあちゃんたちの名古屋弁が心地よく、微妙な齟齬が笑いを誘う。人情が温かいミステリ。






ベートスンの鐘楼
愛川晶

2004年5月 光文社


初めて読んだシリーズだが、美少女代理探偵シリーズの外伝という位置付けにあるらしい。ノベルズ550ページにも及ぶ長篇推理小説で、吸血鬼という単語と本の厚味で選んだ(笑)。

畳に固定された首のない死体が発見される一方で、埋葬された死体が足跡を残して消失する事件が起こる。死者の甦りを布石にして吸血鬼伝説をモチーフにしているが、その濃厚なオカルト色と本格ミステリとが絶妙なバランスで融合している。
美少女代理探偵の根津愛はあくまでワトソン役で、本作の探偵役は多重人格の少女の中に潜む自称・殺人鬼人格の青年。複数の視点から描く手法を利用して、いくつものトリックを用意し、探偵がワトソンをペテンにかける手法が斬新。綿密に拾い出した多くの吸血鬼伝説を目くらましにした伏線も巧みで、タイトルの意味も含め、吸血鬼についても詳しくなれる……これもすごい。






下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん 嶽本野ばら(たけもと のばら)

2002年10月/小学館



「ヤンキーちゃんとロリータちゃん」――もうこの副題だけで食わず嫌いだった作品なのだけど、図書館で斜め読みしている間に何度も噴出しそうになって借りてきた。だって隣の人の不審そうな視線を感じちゃったから。堂々と怪しい人になれるほど、私の根性は座っていないのだ。

主人公は18世紀のロココ世界に憧れ、ひらひらのフリルやリボンで飾り立てた「ロリータ服」大好きっ子の女子高校生の桃子。やくざ家業の父の失敗で茨城県下妻市なるところに引っ越してくる。そこで出会うのが工業高校生で暴走族少女のイチゴ。
二人は、生活スタイルも考え方もまるでかけ離れている上に、世間からもはみ出している。そのギャップだらけの交流がなんともユーモラスで、爆笑モノ! 特に「まんまバカ」に描かれたヤンキーなイチゴが傑作(プププッ)。
でも笑わせるだけの小説ではない。二人はロリータとヤンキーという自分の世界の矜持を貫こうとしつつ、互いに相手の生き方を認め合い、やがてかけがえのない存在となっていく。
いわゆる友情ものというテーマに、野ばらさん独特の毒とユーモアが詰め込まれ、ゲラゲラ笑いながら、ふと、ジーンとしちゃったりして、なんだか心地よくはまり込んでしまった。
ストレス解消に一役買ってくれそうな、元気が出てくる読後感は、野ばらファン以外にもお薦め!
ただし、公共の場で広げるには少々不向きかもしれない。一応、外ではネコを山ほど背負って生きているのに、そのネコたちがボロボロ転がり落ちそうになってしまった私の経験から、要注意図書かも(笑)。






黒いトランク 初版バージョン
鮎川哲也(あゆかわ てつや)

1956.7 講談社/1959.8 ロマンブックス/1974.9 角川文庫/1977.12 別冊幻影城/
2002.1 光文社文庫・鮎川哲也コレクション/2002.1 創元推理文庫



ミステリを覚えたての中学時代の一時期、夢中になった作家さんの1人である。
平成14年9月24日逝去され、ふと懐かしくなって買ってみた(持っていた本はみんな手放してしまったので)。
今回入手したのは光文社文庫版、長い間入手困難だった「幻の名作」の初刊ヴァージョン。
最も普及した角川文庫版や、未読だが決定版として2002年に刊行された創元推理文庫版との違いも分かりやすく解説されている。

東京で死体詰めトランクが発見され、九州からトランクを発送した男に殺人容疑がかかるが、その男もまた、死体となって発見される。死んだ容疑者の妻でかつての想い人だった女性からの依頼を受け、鬼貫警部が真相究明に乗り出す。
巧妙に偽装された犯行現場、死体を運んだ黒いトランクの行方、真犯人とおぼしき人物が持つ鉄壁のアリバイなど、次から次へと立ちはだかる謎を、緻密な論理の組み立てによって1つ1つ看破していく構成は、本格ミステリの醍醐味。隅々まで行き渡るフェアプレイ精神にも脱帽。
しかも、真犯人が分かってからもなお、黒いトランクにまつわる謎がくすぶり続けるので、最後の最後まで事件の全体像が見えないようになっている。
どんな困難にぶつかろうと、かつて愛した女性のために、そして警察官としての自分の矜持ために決して諦めることなく、真実を求めて闘う鬼貫警部がかっこいい。。
東京と九州を横断する黒いトランクの動き、時刻表を使ったトリックなど、注意して読まなければ混乱してしまう部分もあるが(思わず紙に書き出してしまった私…)、全てがあるべき場所に収まってストーリーが完成した時のカタルシスも大きいので、本格ミステリの歴史を知る上でも読んでみる価値がある。

余談だが、膨大な鮎川作品の中で私が1番初めに読んだ小説は『死者を笞打て』だったと思う。思春期の私には、たぶんタイトルが背徳的でとても印象的だったのだ(笑)。内容は覚えていないのだが何かのパロディ小説だったような微かな記憶がある。大人になった目で、もう一度読んでみたくてただ今探索中である。






タナトス・ゲーム
栗本 薫(くりもと かおる)

2002年7月発行/発行 講談社



名探偵・伊集院大介シリーズの最新作にあたります。
伊集院大介のもとに届けられた本は、なんと伊集院自身をキャラクターにした、いわゆるヤオイパロ本(笑)。その同人誌を作った女性の仲間内で失踪事件が起こる……のだけど、作中に登場するヤオイ系同人作家が凄い…。デフォルメするにも程があるだろうというくらい、めちゃくちゃなのだ。
その道の作家さんとは少なからずお付き合いがある私だが、「こーんなヤツ、いねーよ」などと少々白け気味。くれぐれも同人界を誤解しないでね、と言い訳したくなっちゃうじゃないか。
栗本薫氏は、ご自身も同人即売会などに参加されていて、当然ヤオイ系の作品も発表しているのですが、実はヤオラー嫌いなのではないかとも感じさせられます。
「タナトスの子供たち」経由で久しぶりにこのシリーズを読んでみたのですが、伊集院氏の最後の謎解きもキレが今一つ二つ…それなりに魅力的だけど、往年の凄みは薄くなったような気がしました。
でも読みやすく、あっという間に読了できるし、それなりに読ませてくれるあたりはさすがです。…読後感はあまりよろしくないかな。



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