2003年 5月/祥伝社(NON・NOVEL)
いわゆる吸血鬼モノをキリスト教を軸に再構成し、ジャパニーズ・スパイスを絡ませた作品。
『龍の黙示録』シリーズの3作目になるが、この巻は外伝的な位置付けにあると思う。
美貌の著述家・龍 緋比古。明治期には同姓同名の吸血鬼が存在していた。
気味悪さを覚えながら柚ノ木透子は秘書として鎌倉の彼の館へ通う。一方東京では行方不明者が続出し、吸血鬼都市伝説が囁かれる。やがて透子は何者かに狙われはじめる……からシリーズが始まるが、手垢のついた吸血鬼ネタをそつなく料理したという感じで、舞台背景でなんとなく菊池秀行氏の『魔界都市新宿シリーズ』を連想してしまう。
でも、話が思わぬ方向へと流れていくあたりは新鮮かな。
3作目の本作は「龍 緋比古」の過去に焦点が当てられている。
前半は神の子イエスの意志によって与えられた「黄金の血」によって、心ならずも血肉を供えた肉体と不死の命を得た悪霊「龍」とローマ皇帝、後半はぐっと趣をかえて厩戸皇子(聖徳太子)とのストーリーとなっている。
私が歴史物が好きなせいもあるのだけど、吸血鬼の永遠の命の哀しみや人間の業など、深いテーマを絡ませつつ、それらの世界観を構築していくあたりは読みごたえがある。
「龍」の性格の、それまでの2巻との相違がちょっと引っかかるのだけど――永い年月の間に変化したと言われてしまえばそれまでだけどね。
前作を読んでいなくても楽しめると思うので、私は外伝的作品と位置づけたが、シリーズがさらに広がるにしたがって、これらの世界観が現代に結びつき、壮大なドラマと育っていくことを期待している。
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