1997年11月/実業之日本社ジョイ・ノベルス
国文学者・折口信夫のもとに、一通の手紙が届いた。差出人の貴宮多鶴子によると、貴宮家に代々伝わる『源氏物語』は、従来の五十四帖のものと異なり、十七帖しかないという。 これは『源氏物語』の原型といわれる『原・源氏物語』なのか? 折口の指示により貴宮家に出向いた若き国文学徒・角川源義は、源氏千年の歴史に、日本国家を揺るがす驚愕の事実が隠されていることを知る!―『源氏物語』多作者説を裏付ける『原・源氏物語』の存在を巡り交錯する謎を、独自の視点と卓越した想像力で解明した、長編歴史ミステリー。(本書より)
『源氏物語』は複数の作家による合筆ではないか、という疑問から物語は始まる。やがて2つの天皇家が対立していた南北朝時代、そして三種の神器へと歴史の暗部に絡んでいく。それと平行して起こる心中事件の謎――と、井沢氏お得意の歴史分析と推理小説を合体させた歴史ミステリ。 ただ、『源氏物語』から波及したさらに大きな歴史の謎が、メインであった『源氏物語』の謎よりインパクトが大きく、『原・源氏物語』の印象が薄くなってしまったのが残念。 『隠された帝』では逆に歴史分析に力が入っていて、殺人推理の方が付け足しのように感じたものだけど、そのあたりのバランスは井沢氏をもってしても難しいのだなあ。
しかし、歴史フィクションとして読むならとても面白い。 太平洋戦争へと向かっていく時代の足音がヒタヒタ迫ってくるという背景もあって、井沢氏らしく歴史の裏側の考察を垣間見せてくれたりして、わくわくする。
以下余談。 そういえば、『猿丸幻視行』ではまだ学生だった折口信夫氏が登場していたが、井沢氏は教授に対して何か思い入れがあるのだろうか。もっとも今回は狂言回し補佐の役どころで、活躍の場はあまりないのだけど。
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