HOME |  快楽読書倶楽部 | 作者別総合INDEX | 迷夢書架 | JUNE発掘隊 | 一言覚書 |




血 食 系図屋奔走セリ物集高音(もずめ たかね)

1999年5月/発行 講談社(講談社ノベルス)



京極夏彦氏の登場以来、頻繁に刊行されるようになった時代ミステリ。
現在よりもはるかに「家系」とか「生まれ」などを重視していたであろう昭和初期を舞台に、祖先より連綿と続く系譜・系図を、姓、地域、家紋から探り当てる系図屋・忌部言人。その友人・物集高音はひょんなことから仕事を手伝うことになり、ともに和歌山県紀伊大島に渡る。彼らを待ち受けていたものは血の惨劇だった。彼らの調査で、明治19年の謎の海難事故「ノルマントン号事件」との関わりが浮かび上がる。家系調査によって明らかにされる過去の因縁は、やがて事件の真相へと導いてゆく。

作者は「古き佳き時代の探偵小説」の再現を目論んだのだろう。登場人物の口調から仮名遣いまで、すっかり当時の文体で綴られているので、面食らったのち、食いつき甲斐があるってものである(笑)。
とにかく博識で薀蓄がすごい。巻末の参考文献からして、半端な量ではない。ただ薀蓄部分が作中では消化しきれていない印象で、事件の原因や動機は過去の因縁にあり、というパターンは、薀蓄を捨象してしまうと案外オーソドックスな展開かな。
それでも、この時代の風俗や社会背景に興味や浪漫(あえて漢字で書いてみる)に興味がある人には、その詳細で緻密な描写は感動モノかも――たとえ釣竿や盆栽の薀蓄がストーリーの伏線になっているわけではなくても(笑)。
つまり、時代や系図に、何かしらの興味や浪漫を感じないと、ちょっときつい作品かもしれない。
私は、その薀蓄部分に浪漫を感じるタイプだから、結構好きなのだけど。尚、事件の背景にある「ノルマントン号事件」は実際にあった事件なのだそうだ。




CAFE☆唯我独尊: http://meimu.sakura.ne.jp/