蛇吉尼の紡ぐ糸 | 新書版・1998,1/文庫版・2000,11 発行/徳間書店 |
昭和九年の浅草、吉原を舞台にした京極系ミステリ…というより怪奇小説、オカルトホラー・ミステリ、かな。
弁財天境内の「触れずの銀杏」の下で奇妙な死体が目撃される。だが、警察を呼びに行った数分の間にその死体が消失する。やがて事件は神隠しをめぐる因縁へと遡り、謎を深めてゆく。
不況の嵐と軍部の台頭著しい時代を背景に、吉原の自衛組織・車組の弁護士を勤める盲目の探偵・朱雀十五が、もつれた暗合の糸を解きほぐしてゆく――のだけど、京極系と類されるだけに、正直なところ京極堂シリーズと印象が被ってしまうのがもったいない。
大戦直前の時代背景、妖怪じみた事件、探偵役の美貌で盲目の弁護士は少しばかりどこかの躁探偵に被るし、過去に傷を持つ夢見がちな新聞記者は鬱を抱え、熱血直情型刑事とくれば、何をかいわんや。そういう点では、同じ材料で別の料理を作った感じかな。
でも、ストーリーとしては充分面白いし、事件真相の周到なプロットには軽い酩酊感すら覚える。京極堂シリーズにはない作品全体に流れるおどろおどろしい雰囲気は、横溝正史の世界に近しい。
元検事で吉原の相談役という設定、ノスタルジックな色街の背景、軍部が台頭してくる時代の重苦しさが丁寧に描かれている。特に、「吉原」というと時代劇の世界でしか知らなかったので、その組織力や、国家にあっての独特な独立性など、勉強になりました。
朱雀シリーズとして、『陀吉尼の紡ぐ糸』/『ハーメルンに哭く笛』 /『黄泉津比良坂、血祭りの館』/ 『黄泉津比良坂、暗夜行路』 /『大年神の彷徨う島』 /『上海幻夜<七色の万華鏡篇>』がある。 私はこのシリーズを逆から読んでしまったので、当初、世界観が掴めなくておどろしいイメージばかりが先行してしまったのだけど、再読して納得した次第。やっぱりシリーズ物は初めから読んだ方がいいらしい(笑)。
文庫版では全面加筆訂正がされているらしいが、こちらは未読なので作品の相違は不明…すみません。
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