被虐の荒野 初出1987年12月−1990月4月まで4回に渡って「小説JUNE」連載 1993年勁文社
ナザレの人につき従う、使徒のようだ……
▼内容
菫色の瞳が美しくはあるが、寂しげな青年、メラニー・マーフィはテキサスの牧場で働いていた。彼はある日、馬を届けに行ったウィンスロウの保安官事務所で、お尋ね者となったアレックのポスターを見つける。銀行強盗にして、父親殺し……愕然としながらもメラニーは、保安官ヴァローに知らない男だと答える。
だが、かつてメラニーはアレックの父サンダーズに救われ、アレックとは兄弟同然に暮らしてきたのだ。あの夜……サンダーズとの情事を、アレックが見てしまうまでは。それ故、罪を重ねる危険な生き方を選んだアレックに、罪の意識を感じずにはいられなかった。
「誰をも不幸にしてしまう腐った林檎」……おのれの存在が人を狂わすのだ。メラニーは苛烈で理不尽な運命をも呑み込んでゆく。その生き方は、暴力、レイプという形で関わってくる、醜悪で常軌を逸した男たちの魂さえも、やがて救っていくのだった。
▼書評
JUNEには珍しいウェスタン物。メラニーをめぐる人間の精神の暗黒を扇情的に描きつつ、不思議と癒しを感じさせるストーリーです。
でも、何よりも「癒し」を求めているのはメラニーでしょう。凄絶な暴力と繰り返される陵辱が、メラニーの孤独や哀しみを際だたせ、しかし、そのひたむきな生き様は、濃密な存在感を読者の心に刻みつけるようです。
おのれの生きている意味を模索するメラニーは、最後の最後にアレックの死と引き換えにそれを与えられますが、菫色の瞳には聖母の慈愛すら滲ませているような映像が浮かぶようです。
私、どうやら「無私の愛」っていうのに弱いらしいのですね(笑)。思い返してみると自分でもそういう流され型(というと語弊があるかも)のキャラを書いているくらいですから(爆)。常に受け身の生き方に苛立ちを感じつつ、心惹かれる作品でした。
さて、実は主人公のメラニーの考えていることが分からなくて(汗)、発売された当時、やはり友人と「なんで犯られっ放しているかなー」と話したものでした。
今回「発掘隊」用の原稿を書こうと思って読み直してみたのですが、すごく印象深くて、心惹かれる作品だけに、消化不良のような感じがつきまとっています。
それで、今回は「Natural Agency」のはや様にお手伝い頂きました(SOSともいう…)。お蔭様で、私の消化不良も解消されたというもの♪。
この素晴らしい原稿を強引にもぎ取るという快挙(暴挙)を褒めてん(おいおい…笑)。
以下、はや様より頂いた感想です。
「被虐の荒野」の感想 【by はや様】
まるで映画でも見ているような感覚で、映像を頭の中に浮かべながら読みました。
最初は「風と共に去りぬ」っぽかったのが、途中から西部劇に変わりましたけど、荒野、銃、場末のバーというだけでロマンを感じます。汗とほこりにまみれた男の世界ですよね〜。
キャラクターについてですが、『美しくて強い』人というのは私のツボなんですよ。だから、メラニーはけっこう好きなタイプです。
まず、キリストか、天使か、というほど慈愛に満ちて優しいということ。私などはかなり腹黒い人間なのですが(笑)、本当は人を信じて誰にでもいつでも優しくできる人間でありたいという想いも胸の中に隠し持っているのです。だから、メラニーみたいな人を嫌いになれません。もうちょっとうまく立ち回れよ、と思う場面もありましたが、ずるいところがないので憎めないです。
そのうえ、医者になってしまうほど頭がよくて、銃の腕前も抜群で、暴れ馬を乗りこなすことができ、ポーカーでは勝 つし、とかっこいい要素も持っています。さらに、1人で敵陣へ乗り込んでいく勇気もあると。メラニーは、自分の不幸を悲しんだり、うじうじ悩んでないで、さっさと行動しますよね。放っておけばいいのにとか、やめておけばいいのにとも思うけれど、その半面、彼のこの思いきりのよさ、潔さは気持ちいいんですよね。
それでいて、淫らで感じやすい肉体を持ち、男たちを無意識のうちに引きつけてしまう罪な男でもあります。それゆえ自分は望まないのに強く執着されて、たくさんの男たちにあっちこっちで犯されまくりましたね。だけど顔の作りが美しくて、菫色の瞳で、お肌つるつる、プロポーションも抜群だとしたら、男たちに目をつけられてもしょうがないかな……と思ったりして。 不幸にもいろいろあるけれど、貧乏とか、天涯孤独など、テレビドラマや小説やマンガの中によく出てくる不幸より、淫らな体は、やおい好きの乙女にはもっともビビッとくる、おいしい不幸だと思います。感じてしまう体を止めることはできませんからね。
しかし、体は汚れても心はいつも清いままなんですね〜。サンダーズへの想い、アレックへの想い、ヴァローへの想い。どれも大事にしてますよね。だから、不幸になっちゃうんだけど……。そこがこの人の魅力でもあるわけで。周りがなんとかしてあげたいと思ってもどうにもならないですよね。この想いをとったらメラニーではなくなってしまいますからね。
アレックについては、 彼がいくら悪さをしても憎めません。メラニーへの彼の気持ちが分かるような気がするから。
サンダーズはやさしい人だったんですね。死の場面がよかったです。ヴァローがいい人でよかった〜とつくづく思いました。最初は悪魔のような人だと思いましたが。
物語の最後に、メラニーとヴァローが生き残って良かったです。でも、メラニーはきっとまた不幸を呼び寄せてしまうに違いない(笑)。人をすぐ信じるから利用されやすいし、ずるく計算できないし、美しすぎるから周りから放っておいてもらえないし。もしもこういう人が身近にかいたら、いい人すぎて幸せになれそうにないですよね。メラニーのことも、冷静に考えればこの先も幸せになるとは思えないんだけれど、それでも、本当はこういう人にこそ幸せになってほしいなぁと思ってしまいました。
メラニーって、魅力とともに、一生克服できそうにない、どうにもならない弱点や不幸を背負ってる人ですよね。だから、どうにもならないとは知りつつ、「この美しい人をなんとかしてあげたい」と思ってしまうような気がします。
はや様、私の暴挙にお付き合い下さって、ありがとうございました。
心から御礼申し上げます。
|