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酒見賢一








後宮小説

1989年12月/新潮社、1993年4月/新潮文庫



第1回ファンタジーノベル大賞受賞のデビュー作。
素乾国、槐暦元年2月。弱冠17歳で素乾国の帝王となった槐宗のために後宮の宮女募集が
行われる。三食昼寝つきの生活を夢見て少女・銀河も早速応募し、宮女候補として選ばれ
る。都に上がった銀河は、他の宮女候補たちと女大学で半年間、後宮で必要とされる様々
なことを学ぶことになる。銀河と同室となるのは貴族階級の出身でプライドが高いセシャーミ
ン(世沙明)、セシャーミンより身分が高いらしい謎の美女・タミューン(玉遥樹)。そして、銀
河と同様の田舎出身で、寡黙で無表情な江葉。だが前帝王妃は継子である新帝王の命を
狙い、さらに国内では反乱軍が蜂起しようとしていた。銀河は後宮の女達を率いて軍隊を
組織し、反乱軍に立ち向かう。

「腹上死であった、と記載されている」という書き出しにぎょっとするが、これがなかなかに人
を食った作品。
歴史的事実に対して筆者の私見を交えながら書き留めたドキュメントという形式だが、創作
の資料を元に作りあげた奇想天外な物語。明らかに中国が舞台となっているので、中国史
にこんな国あったっけ? と悩んでしまうが、実は架空の王朝を舞台にしたまったくの架空の
物語である。つまり資料とされている「素乾書」「乾史」「素乾通鑑」などそのものが創作。さら
に後世の史家の言葉が引用され、筆者の意見などもところどころ挿入されるという念の入り
よう。読み手が惑わされるほどのリアリティがある。

子宮に見立てた後宮という緻密な舞台設定に登場するのは、非常に個性的な人物たち。ス
トーリーは筆者の視点から淡々と進んでいくが、ぐいぐいと引きつけるものがある。
後宮の門をくぐった娘たちは女大学で、宮女候補生として後宮学を学ぶ。要するに房中術
だ。この実践的な講義が面白い。後宮というと、大奥のようなドロドロした愛憎や、宦官たち
の権力争いというイメージがあるが、女大学による房中術は1つの哲学である。しかし銀河の
あっけらかんとしたキャラクターゆえ、淫靡さからはほど遠く、健康的でさえある。後宮で使う
という淫雅語にも人を食ったような可笑しみがあり、妙に明るい。これは、銀河の魅力ゆえだ
ろう。皇帝に仕えるということの意味さえほとんど理解していない銀河にとって、そこでの毎
日は好奇心と冒険に満ちた異世界なのだ。
この作品の命は作中全体に流れる独特の軽(かろ)みにある。歴史上の国家を見事にでっち
上げ、全体的にはそこはかとなく暗いムードが漂う中、生き生きとした女性を描いた爽快なエ
ンタテイメント作品である。

『雲のように風のように』のタイトルでアニメ化しており、観た方もいると思うのだけど、大人の
アナタなら原作の方が房中術についての薀蓄が面白い(笑)。




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