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山田正紀 (やまだ まさき)

略歴
1973年 -『神狩り』でデビュー。第6回星雲賞 日本短編部門を受賞。
1978年 -『地球・精神分析記録』で第9回星雲賞 日本長編を受賞。
1980年 -『宝石泥棒』で第11回星雲賞 日本長編を受賞。
1995年 -『機神兵団 』で第26回星雲賞 日本長編を受賞。
1982年 -『最後の敵』で第3回日本SF大賞 を受賞。
2002年 -『ミステリ・オペラ』で第2回本格ミステリ大賞と第55回日本推理作家協会賞 を受賞。

■ 天動説(一、二)







天動説(一、二) 昭和63年6月、平成元年8月/カドカワノペルズ


貧乏侍・鉄太郎と切れ者の岡っ引・仙三が、妖異な事件に挑む、時代物吸血鬼の意欲作。江戸の町を舞台とする「一、江戸幻想編」と、「二、蝦夷伝奇編」からなる連作長編集スタイルをとる。

時は天保の頃。血まみれの船頭らの死体を乗せた巨大な千石舟が、品川沖に漂流してきた。これが江戸の町につづけざまに起こった奇怪な事件の発端だった。(一、江戸幻想編)
天下泰平な江戸の街に起こった怪異――怪しい忍術遣い、謎の虚無僧、そして血を抜かれた女の死体。その陰には異国の妖怪ヴァムピール=「さたん」がいるらしい。謹厳な同心だった兄は魔性の手先と成り下がり、ほのかに思いを寄せる兄嫁は「さたん」の手に落ちた。(二、蝦夷怪奇編)……あらすじから抜粋。

江戸の町に吸血鬼(ヴァムピール)現る――浪漫だわ〜。何年ぶりかの再読だったけど、あまり記憶に残っていなかったので楽しめた。
吸血鬼を江戸の町に登場させた先駆的作品ではないだろうか。その設定もさることながら、大奥の内紛や、鳥居耀蔵、河内山宗俊、間宮林蔵などの史実に登場するエピソードの織り込みかたが面白い。そして戦いを挑むほどの知識や手段もなく、ただただ事件に巻き込まれ、翻弄されながらも抗えない人々の虚しさや、そんな自分の無力感に傷つけられていく様が、奇想天外なストーリーに血肉を与えている。

無力な自分を自覚しながらも、主人公たちは戦う。
最終章「旅順招魂祭」で、舞台はいきなり1904年1月(日露戦争開戦1ヶ月前頃)に飛び、吸血鬼との闘いは鉄太郎の孫・堅太郎に受け継がれる。ヴァンパイヤは本当に滅ぼすことができるのか――タイトル『天動説』はここでようやく意味を成す。運命に立ち向かうからこそ、ラストが印象深い。そのあたりは職人技ってものだろう。






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