1999年06月/光文社
近未来、2023年の東京。警視庁捜査4課特殊班の刑事・涼子は、麻薬犯罪王・崔将軍が率いる組織にアンダーカバーとして潜入する。任務は合成麻薬・ブラックボールとの関わりを暴き、全容解明すること。組織にはすでに国際麻薬機関・INCのアンダーカバーが1年前から潜入しているが、INCは涼子との接触を拒否する。 単身、組織の流通部門に接触した涼子は、トラックジャックの犯人と内通者を突き止めることを足ががりに、組織の中枢に近付いてゆく。だが、調査が内通者に近づくにしたがい、次々と幹部が殺される。 孤立無援の涼子の前に龍という謎の男が現れる。幾度となく龍に助けられた涼子は次第に心を寄せるようになり、彼がINCのアンダーカバーではないかと期待する。 やがて涼子は組織のトップである崔将軍との面会が許され、全貌が明らかになる。
「小説宝石」1999年3月〜1999年5月号に連載された『AD2023 涼子』を加筆改題した作品。 「あとがき」によると、この作品はもともとTVゲームのプロジェクトの中から誕生したものらしい。ゲームは女刑事のアドベンチャーゲームで、正篇と続篇という形で繋がっているのだそうだ。 ヒロイン「涼子」の設定が、これで納得。なにせ、「超」のつく美貌にモデル並みのスタイル、頭もいいし、度胸も勇気もある。神様にえこひいきされたとしか思えないキャラクターなのだ。 実際にこんな完璧な女性がいたとして、その女性に対して「すごい」と感嘆することはあっても、おそらく人間味を感じることはないだろう。そんなキャラクターにリアリティを持たせるのが、涼子の、女であるがゆえのコンプレックスや情の深さだ。そして、孤独で一途な魂に魅了される。 龍は彼女の弱点を的確に指摘する。 美人であることに対するコンプレックス。他人と違う、ということは、いいことでもあるがストレスフルでもあるのだ、と。 そんなコンプレックスは嫌味に思えそうなものだが、涼子のコンプレックスは、男社会で「女だから…」と差別されるのと同じで、「美人だから…」男からも(たぶん)女からも差別される。 それでいて、美貌をしっかり武器にもしている強(したた)かさが、かっこいい。
涼子が組織に食い込んでいく過程が見事だ。一見かかわりのない連中といざこざを起こし、自分の腕前を組織の人間にそれとなく見せつけるあたりは出来すぎの感もあるが、涼子の八方破れの活躍が面白い。絶体絶命の危機に瀕しても、なんとなく安心してみていられる。普通ならとっくに殺されてるよー、なんて言いっこなし。過剰な意義付けを行うことなく、あくまで無邪気なエンターテインメントとして読者に供する。 怒涛のアクションシーンあり、非情な場面あり、ロマンチックな恋など、涼子の活躍を楽しめばいい。
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