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森福 都 (もりふく みやこ)








十八面の骰子(じゅうはちめんのさいころ)

2003年3月19日/光文社


宋代最盛期を舞台に、巡按御史一行として旅をする趙希舜と傅伯淵、そしての希舜の父に用心棒として雇われた賈由育が活躍する連作短編集。
巡按御史とは、身分を隠して任地へ赴き、秘密裏のうちに地方役人の不正の有無を吟味するという天子直属の監察官で、いわば秘密捜査官のこと。「先斬後奏」「勢剣」「金牌」という身分を証明する3つの品を携行し、身分を隠した旅の一行がその土地の悪を正すというのは、帯にもある「水戸黄門の原点がここに」の世界である。とはいえ、このキャッチコピーはいかがなものか…逆に引いちゃうんじゃないか、ふつう(笑)。

実年齢は25歳にも関わらず、15歳程度の少年にしか見えない(という体質らしい)希舜は時の天子の従兄弟にあたるのだが、洛陽で仁医として名高かった陶文奥の孫として育った。もちろん門前の小僧で、医術の心得もあるが、自分が皇族であると知ったのは最近のこと。
傅伯淵はひょろりと背の高い書生風の美青年で、講談師も裸足で逃げ出すほどの美声の持ち主。ボディガード役の賈由育は、山賊もどきの豪傑という外見通りの力自慢。
個性の豊かなこの3人組の活躍ぶりや、さらに事件の謎が見えた希舜がいよいよ解決に乗り出すときには、なんと伯淵が代役を務めるという設定の妙。カナシイかな、15歳にしか見えない希舜ではとても本物には見えないゆえの苦肉の策なのだが、本人に鬱屈はなく、語り口が軽妙でなんとも楽しい。

一話完結で物語の進行に従い、3人の過去や深い設定も見えてくるという構成だが、伯淵が希舜の祖父に拾われることになった経緯や夏謡琴という女性とのこと、巡按御史となった経過など、設定のさわりだけ振っただけの物語が潜んでいる模様。つまり、シリーズとしては完結していないようなのだけど、続編がでるのかが気になるところ。






双子幻綺行 洛陽城推理譚

平成13年2月/祥伝社


7世紀末の大唐帝国初頭、中国史上唯一の女帝・則天武后として知られる聖神皇帝の治世。少年宦官・九郎と女官・香蓮の双子の兄妹は15才になったばかり。則天武后のお気に入りだ。だが栄華を極める王朝の裏では、駆け引きや陰謀が蠢いている。二人は、後見人である洛州長吏の李千里によって、宮廷の情報収集を命じられ、色々な事件を探っていくという連作推理短編集。数々の謎が、九朗の冷静な才知と、好奇心たっぷりの香蓮の行動力によって解かれてゆく。

なんとも艶やかで心惹かれる作品で、幾度となく再読している。
見返しで田中芳樹氏が「中国のロココ時代ともいうべき女帝・武則天の治世」と紹介している通り、豪奢で花の香りあふれる、雰囲気のある作品である。さらにミステリ風味が加えられ、大唐代の最も華やかな文化を彩った風物を楽しめるのも嬉しいところ。杜鵑花とも呼ばれる真っ赤な躑躅(つつじ)の花、鳳凰や昇竜などの氷の彫刻、咲き誇る菊花の大海原、金柑ほどの大きさもある麗しい真珠、正月の縁起物でもある膠牙糖(固めた水飴)で作られた短刀などなどの風物が、目にも鮮やかな舞台にしっとりとした色香を添えている。
宮廷が舞台というだけあって、宦官を始めとする臣下同士のせめぎ合いなどもあり、それがまた面白いのだが、華やかに始まる物語に、やがてじんわりと不穏な空気が混じってくる。物語の進行にそって時代は移り変わっていく様は、作品の息づかいすら感じさせるようだ。

天真爛漫で兄思いの香連と、幼い頃から宦官となることを運命づけられて容易に心を開かない九郎の猫かぶり振りや、宦官ゆえの鬱屈と知的作業への執念が好対照をなしており、二人のかけあいも温か味があって楽しい。

ラスト――これから大きく動いてゆこうとする周という国に戦いを挑もうとするかのような九郎の姿が印象的。




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