2002年12月/講談社文庫
江戸小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登。居候先の叔父の家で口うるさい叔母と驕慢な娘にこき使われている登は、島送りの船を待つ囚人からの頼みに耳を貸したことから、思わぬ危機に陥った――。起倒流柔術の妙技とあざやかな推理で、獄舎に持ちこまれるさまざまな事件を解く。著者の代表的時代連作集。(本書カバーより)
青年医師の立花登を主人公とするシリーズ第一巻。 登は医者である叔父の家に居候しており、同居している叔母やその娘から下男のような扱いをされている。牢に入った囚人を診るのも、やる気のない叔父に押し付けられたというところ。
登は剣は出来ないが柔の達人。悪と対決する際も柔術で勝負するので、殺傷沙汰とならないところが爽やかだ。しかし、しがない獄医にすぎない登が直接事件を解決できるわけではない。どうしようもなく、やるせない結末をむかえる事件もある。獄中の人間に対する暖かなまなざしに、わずかながらも弱者への救いを感じさせる。 化連を嫌うこの作者らしく、物語は淡々と語られるが、その背景に見え隠れする江戸の人々の、ちっぽけだが生き生きとした生を描く確かな筆致は、いかにも藤沢周平氏らしい。
高飛車な叔母や、獏連女予備軍ともいえる娘のおちえ。一家の大黒柱であるはずの叔父は医者のくせに怠け者なので繁盛してないし、そのため妻にも娘にも軽んじられている。 最初は居候の身であるとわきまえていた登だが、物語が進むにつれ、少しずつ口が悪くなってゆく様子ににんまり。今後も目が離せない展開となりそうだ。
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