2003年6月/文春文庫
平成14年『あかね空』で第126回直木賞を受賞した山本氏のデビュー作となる。 上司の身代わりとなって職を辞し、今は庶民相手に鍋釜や小銭を貸す損料屋となった、元同心・喜八郎を主人公とする連作時代小説。 ただし、損料屋というのは表の顔。その実体は、ある時は米屋政八の身代わりとなり、ある時には元の上司である北町与力・秋山の懐刀となって、巨利を貪る札差を相手に堂々と渡り合う。札差・米屋の先代が、総領の甚六代表ともいえる頼りない二代目を支えて貰う為、喜八郎に損料屋の商売を世話した事情がある。この喜八郎と、彼の手足となって働く行商人たちがチームを作り、丁々発止の情報戦を繰り広げる。
時代は、旗本・御家人が金繰りに苦しみ、その一方、支給米を担保にその御家人らに金を融資する札差が隆盛を極めていた頃。 時代劇などでは悪役に描かれる札差(ふださし)だが、札差とは本来、旗本や御家人たちが幕府から支給される切米を売り捌く仲介人だったが、それを担保にして高利で金を貸す高利貸しになっており、札差たちは飛ぶ鳥も落とす勢い。 一方、御家人たちはといえば、年利40%の高利にあえぎ、二年、三年も先の切米を担保に追い貸しを求めねば暮らしが立ち行かない始末。貸し渋る札差に対し、御家人は食い詰め浪人の蔵宿師(くらやどし)を借金強要の助っ人として雇い、それに対抗するために札差側は弁才と胆力のある対談方(たいだんかた)を雇い入れる。そんな風潮を是正すべく発令された借金棒引きの「棄捐令」だが、ことは簡単に解決するはずもない。 この棄捐令攻防が、この連作集の縦糸になっている。
棄捐令を初めとする秋山=公儀の判断は正しかったのか。物語としては悪役である伊勢屋と笠倉屋は加害者なのか被害者なのか。 作品に滲む世の中の割り切れなさ、やるせなさ――しかし、どっこい庶民は力強く生きてる。喜八郎に助けられつつ、自尊心が高いばかりでそれを納得できない米屋政八も憎めないが、喜八郎はもちろんのこと、彼が率いる庶民チームがいなせな江戸っ子を演じていて、よっ粋だねえ(笑)。
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