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アガサ・クリスティ 

学生時代に夢中になったクリスティに、時を経て再びマイブーム(笑)。
クリスティの良さは誰にでもわかりやすい伏線の張り方、人物描写の巧みさ、
大きな破綻のないストーリーだろう。もちろん多作だから、作品の出来不出来は
あるものの、根底にあるのが「愛」だから読後感もいい。
ただ、翻訳者によっては面白みが削がれる作品もあるのが残念…。

【発表年順・・・内容は「BOOK」データベースより抜粋】
 フランクフルトへの乗客"Passenger to Frankfurt"






茶色の服の男"The Man In The Brown Suit"1924年発表

【内容】
イギリスの世界的考古学者を父にもつ冒険好きの娘アンは、地下鉄の駅でナフタリン臭い服を着た男の変死を目撃し、その場に現われた茶色の服を着た男によって、国際的スパイ活動の渦中に巻き込まれてしまった。舞台はロンドンからアフリカへ……。
【感想】
この作品はなんていっても主人公アン・ベディングフェルドの魅力に追うところが大きい。最初の事件に遭遇してからの彼女の、向こう見ずともいえる行動力は呆気にとられてしまうほど。
アンの足に惚れるサー・ユースタスはお茶目だし、魅力的なスーザン・ブレア、往年の毒殺犯人のような陰気な顔をしたパジェットやら、一癖も二癖もある脇役たちもいい雰囲気。
アンが謎を追って乗り込む南アフリカ行きの豪華客船や、南アフリカ上陸後の展開もスピーディで小気味よく、トリックにも工夫がある。冒険、旅情、ロマンスをも盛り込んで、軽快なミステリとなっている。






チムニーズ館の秘密"The Secret of Chimneys"1925年発表

【内容】
王政復古で混乱するヘルツォスロヴァキア国。その石油利権を狙う各国代表が、ロンドン郊
外のチムニーズ館に集結していた。秘宝を狙う大泥棒までもが入り乱れるなか、ついに殺人
が! 事件解決に乗り出したバトル警視以下英米仏の探偵たちは、どんな結末にたどり着くの
か? 謎が謎を呼ぶ、波瀾万丈の冒険ミステリ。
【感想】
本書は、チムニーズ館を舞台とする『七つの時計』と対をなす作品。
王子様殺人事件を発端に、共和制維持派と王政復古派の政権の行方を左右する石油利権
や、人騒がせな回顧録の存在、変装名人の宝石泥棒など、時代かかった設定だが、巧みな
ストーリー展開で飽きさせない。それぞれの登場人物も魅力的だ。
何といっても、調子よすぎて胡散臭いが憎めないハンサムなアンソニーと、未亡人でおきゃん
系美人の組み合わせが印象的。チムニーズ館主であるケイタラム侯爵のやや被害妄想気
味のおとぼけぶりや、今回は脇役に甘んじている令嬢アイリーン(バンドル)もピリリといい味
を出している。
一同を会しての謎解きといい、最後に用意されたどんでん返しといい、ミステリの定石を踏み
ながら、痛快な冒険活劇に仕上げられている。
この先、何作かで活躍する地味ながら有能なバトル警視の初登場作品でもある。






七つの時計"The Seven Dials Mystery"1929年発表

【内容】
ロンドン郊外のチムニーズ館に宿泊していた若い外交官が、睡眠薬を飲んで変死した。死体の枕もとには七つの目ざまし時計が…この事件と、謎めいた“セブン・ダイヤルズ・クラブ”の関連は?謎は謎を呼び、推理と冒険が入り乱れ、事件は思わぬ展開を!『チムニーズ館の秘密』に続く、波瀾万丈の冒険ミステリ。
【感想】
『チムニーズ館の秘密』の続編で、チムニーズ館とバトル警視が再登場するが、内容は全然別なので単発作品として楽しめる。
前作では脇役だったチムニーズ館主・ケイタラム侯爵の令嬢・アイリーン(バンドル)が大活躍。元気がよすぎて老齢な高官に求婚されたりと墓穴も掘るが、ちゃきちゃきの江戸っ子気質の本領発揮の巻。もちろん、ケイタラム卿のぼやきも磨きがかかって健在である。
いかにも怪しい秘密結社セブン・ダイヤルズのメンバーが時計を描いた覆面をかぶって「1時」「2時」などと呼びあったりとマンガチックな設定もあるが、その正体は、クリスティーならではの意外さと、作品を楽しんで書いたのだろうという遊び心が感じられる。
なにより、クリスティが仕掛けた叙述トリックが見事。何気なく読み進めると、最後にどんでん返しが待っている。






書斎の死体"The Body in the Library"1942年発表/ミス・マープル編

【内容】
書斎に転がる死体なんて探偵小説の中だけ―が、現実に見知らぬ女性の死体が大佐の書斎で発見された。深まる謎を解くため、ミス・マープルが駆り出され、まもなく被害者と“マジェスティック・ホテル”の関係が明らかになるが…。
【感想】
本書の序文の中で、探偵小説におきまりのテーマ「書斎の死体」、この「よく知られたテーマに変化をつけた素材」を長年模索してきたという。オーソドックスで伝統的な書斎という舞台と、奇想天外な死体、というのがクリスティが自身につけた条件である。

捜査の大部分は警察によって進められ、ミス・マープルは少ない登場場面で警察の捜査の誤謬を指摘したり、方向転換を促がしたりする役どころ。
小さな村という閉鎖的な社会がプロットにも密接に絡んでおり、ミス・マープルはいつものように、自宅のあるセント・メアリ・ミードの住人たちの似た性格の人物から推測し、人間心理を分析していく過程はさすが。トリックやラストの意外性も充分楽しめる。
ただ、クリスティが自身に課した条件に縛られているせいか、バントリー家の書斎が片手間に片付けられていたり、作品としては強引な印象を受けるのが残念。






ゼロ時間へ"Towards Zero"1944年発表

【内容】
残忍な殺人は平穏な海辺の館で起こった。殺されたのは金持ちの老婦人。金目的の犯行かと思われたが、それは恐るべき殺人計画の序章にすぎなかった―人の命を奪う魔の瞬間“ゼロ時間”に向けて、着々と進められてゆく綿密で用意周到な計画とは?

【感想】
ミステリは犯罪が発覚するところから始まるのが普通だ。犯罪の多くは殺人だが、しかしそれは結果であり、物語の結末である。しかし犯罪は、実はずっと以前から始まっているのだ。ある時、ある場所から…、やがてあらゆるものがある一点に向けて集約されていく。すなわち「ゼロ時間」へ――という変則的な作品として有名。
そのゼロ時間へ向けて計画を進めているのは誰か、が物語の中心となっているのだが、ストーリー展開は、関係者の集合−殺人事件発生−警察の調査−犯人逮捕と、実際にはオーソドックスな形態をとっており、クリスティのトリックは「ゼロ時間」を読者に意識させるというタイトルそのものにあるのかもしれない。伏線もバリバリで、この繊細さこそ、クリスティが未だに読み続けられている最大の理由なのだろう。

ひとつ残念だったのは、私がクリスティを読んでいたのは随分前のことなので、探偵役のバトル警視がどんな人物だったかまるっきり覚えてないこと。他の作品での彼の活躍を踏まえていれば、もう少し楽しめたのにな。






予告殺人"A Murder Is Announced"1950年発表/ミス・マープル編

【内容】
その朝、新聞の広告欄を目にした町の人々は驚きの声を上げた。「殺人お知らせ申しあげます。12月29日金曜日、午後6時30分より…」いたずらか?悪ふざけか? しかしそれは正真正銘の殺人予告だった。
【感想】
いきなり新聞に載った「殺人予告」の広告。何か面白いゲームだと思った物見高い近所の人々は予告時間に合わせてその家を訪ねる。だが、お遊びだと思われたその運命の時間に本当の殺人が起こる。
何の動機も考え出せないまま、過去のもつれた糸を、ミス・マープルが少しずつ解きほどくのが痛快。トリックの伏線も緻密に撒き散らされているが、構成はシンプルだ。
日常のちょっとした道具やファッションやお料理など、どこにでもあるようなものを小道具に使っている演出も楽しい。






バグダッドの秘密"The Came to Baghdad"1951年発表

【内容】
おしゃべり好きが災いして会社を馘になったヴィクトリアは、一目惚れした美青年を追いかけて一路バグダッドへ。やっとのことで彼の勤め先を探しあて、タイピストとして潜り込んだものの、とたんに不可解な事件に巻き込まれてしまった。さらに犯人の魔手は彼女にものびて…中東を舞台に展開するスパイ・スリラー。
【感想】
ミステリというよりはロマンチックな冒険小説。
まだ米ソ冷戦中だった時代で、アメリカとソ連の対立をあおるテロリストに対して、イギリス諜報部員が活躍する、というあたり時代を感じるが、そこはクリスティ女史、一筋縄ではいかない。なにが事件なのか、誰がその首謀者で、誰がそれを解き明かすのかが、最後まで明らかにされず物語が展開していく。さらに、伏線とどんでん返しが幾度も繰り返されるため、うっかりすると推理においてきぼりを食らってしまう。

ヒロインは、『茶色の服の男』のアン、『七つの時計』のバンドルに並ぶ、おきゃんで無鉄砲なヴィクトリア。失職した翌日には公園であった青年に一目ぼれ、彼を追ってバグダッドに行ってしまう。大した金も持たず、言葉も分からない異国で積極的に人生を開拓していく様には呆気にとられるばかりだが、1950年代にこのような物語が描かれ、受け入れられる土壌には感心するばかり。
ほかの登場人物も個性派揃いで、それらの人物を一人ずつ描写し、それぞれの接点で彼らは交錯し、やがて、じんわりと網の目を絞り込むようにある人物が浮かび上がってくる。
クリスティは政治ネタが苦手といわれるが、ストーリーの展開が早く、登場人物の生き生きとした魅力もあって、とても楽しんで読める作品となっている。






フランクフルトへの乗客
"Passenger to Frankfurt"
1970年発表

【内容】
人生に退屈している外交官スタンフォードは、フランクフルトで女性から奇妙な依頼を受ける。パスポートとマントを貸して欲しいというのだ。彼女の横顔に妹の面影を見た彼は、彼女の頼みを聞き入れるのだが、イギリスに帰国したスタンフォードは、何者かの襲撃を受ける。あの女性の正体は・・・スタンフォードの探索が始まる。
【感想】
クリスティ女史の80歳を記念して書かれた作品。冒頭の前書きで、小説のアイディアなどについて書いているのが興味深い。
ネオ・ナチの台頭、世界の危機を伝える情報など、混迷する社会情勢への憂いを織り込もうとしたのだろうか。
見知らぬ美女との邂逅とわくわくする出だしで、序盤は軽快なテンポで進むのだが、中盤以降、視点が散漫になってしまい、やや薄味の感がある。ストーリーやプロットで楽しもうとするとちょっとがっかりするかもしれない。
なにより、高齢にして新奇なスタイルに挑戦する作者のバイタリティ、その生き様には脱帽!




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