バグダッドの秘密"The Came to Baghdad" | 1951年発表 |
【内容】 おしゃべり好きが災いして会社を馘になったヴィクトリアは、一目惚れした美青年を追いかけて一路バグダッドへ。やっとのことで彼の勤め先を探しあて、タイピストとして潜り込んだものの、とたんに不可解な事件に巻き込まれてしまった。さらに犯人の魔手は彼女にものびて…中東を舞台に展開するスパイ・スリラー。 【感想】 ミステリというよりはロマンチックな冒険小説。 まだ米ソ冷戦中だった時代で、アメリカとソ連の対立をあおるテロリストに対して、イギリス諜報部員が活躍する、というあたり時代を感じるが、そこはクリスティ女史、一筋縄ではいかない。なにが事件なのか、誰がその首謀者で、誰がそれを解き明かすのかが、最後まで明らかにされず物語が展開していく。さらに、伏線とどんでん返しが幾度も繰り返されるため、うっかりすると推理においてきぼりを食らってしまう。
ヒロインは、『茶色の服の男』のアン、『七つの時計』のバンドルに並ぶ、おきゃんで無鉄砲なヴィクトリア。失職した翌日には公園であった青年に一目ぼれ、彼を追ってバグダッドに行ってしまう。大した金も持たず、言葉も分からない異国で積極的に人生を開拓していく様には呆気にとられるばかりだが、1950年代にこのような物語が描かれ、受け入れられる土壌には感心するばかり。 ほかの登場人物も個性派揃いで、それらの人物を一人ずつ描写し、それぞれの接点で彼らは交錯し、やがて、じんわりと網の目を絞り込むようにある人物が浮かび上がってくる。 クリスティは政治ネタが苦手といわれるが、ストーリーの展開が早く、登場人物の生き生きとした魅力もあって、とても楽しんで読める作品となっている。
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