2003年2月/祥伝社
軽快な文体に、軽快な登場人物の繰り広げるコメディー・クライム・ノベルス。
人間嘘発見器でクールなリーダー役の成瀬。動物愛好家でスリの達人・久遠。口だけで生きているような演説の名手・響野。正確な体内時計を保有するシングルマザーの雪子。
ひょんなきっかけで偶然出会ったこの4人は、現在、ロマンある銀行強盗を繰り返しては百発百中の銀行強盗グループである。
「現金輸送車の襲撃にはロマンがない」とのたまう彼らの手口は、窓口カウンターまで最小限の変装で近づき、「警報装置を使わせず、金を出させて、逃げる」というシンプルなもの。
綿密な打ち合わせのもとに行なわれた銀行強盗からの逃走中、4人は思わぬアクシデントに見舞われる。
とても上質なコンゲーム。4人の視点が順番に切り替わりつつ物語が進行していくのだが、読む者の手を止めさせない勢いとスピード感がある。
コメディ作品にはキャラ立てが重要だが、脇役も含め、キャラクターがとても魅力的。
もちろん生まれながらの人間嘘発見器や、正確な体内時計のような特殊能力を持つ人間がいるとは思えないし、天才的なスリといい、演説の達人といい、設定としては出来すぎの感がある。しかし登場人物たちの軽妙な会話やリズム感が心地よく、ユーモアや薀蓄もスパイスがほどよく効いて、読み進むにつれ、そんな不自然さも気にならなくなる(笑)。
そして何といっても楽しいのは、綿密な下見に作戦会議、そして実際に実行する銀行強盗。その最中の響野の薀蓄満載の演説。呆気に取られている行員や客の顔が目に浮かぶようではないか。5分きっかりで仕事が終われば、優雅なお辞儀と「ごきげんよう」の挨拶を残し、スマートに去って行く――なんともお洒落で爽快。
この痛快なストーリーに、障害を持つ少年や中学生の陰湿で残忍ないじめなどの重苦しい話を、ユーモアを交えてさり気なく加えているあたりは作者の力量なのだろう。
各章の始めに、その章に関係する一つの単語とその言葉の説明があるが、それがまた楽しい。ごく普通の辞書的記述から始まり、章が進むにつれウィットに富んでいくあたり、シニカルで洒落っ気たっぷり。
伏線の張り方もさらりと見事で、終盤で次々収束していくさまはいっそ快感。
伊坂氏自身のあとがきで映画を引き合いに出されているが、本当に映像が浮かんでくるようだ。遊び心満載のエンタテイメント作品である。
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