聖徳太子の命を受けた子麻呂(ねまろ)とその部下たちの活躍を描く、奈良の都の捕物帳。
時代設定は飛鳥時代。聖徳太子が冠位十二階の制度を作らんとしている時期――古代にまで遡るミステリがあったとは目からうろこだった。
主人公は厩戸皇太子(聖徳太子)から事件が発生したときの探索方に任命された、舎人の長の調首子麻呂(つぎのおびと・ねまろ)。直情決行型の男ゆえ、人の機微や裏の人情を窺うのは、ちと弱い。その補佐役の部下に魚足(うおたり)を配し、役人も農民も、男も女も、そして死体をも含めた登場人物全てが、渦巻くように濃密に絡み合った人間ドラマという感じ。高潔で理想に燃える厩戸皇太子の姿と、彼を慕う主人公の心根が、この小説の全体に清涼な風を渡らせている。
ミステリとしてよりも、その時代に生きる人々の生活、そして厩戸皇太子が政治の革新を志していた時代の苦悩が窺え、古代の外史としても面白い。
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