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ポーラ・ゴズリング 

1939年にミシガン州デトロイトにて生まれ。ウェイン州立大学卒業後、
1964年に英国に移住。コピーライターなどを経て 1979年から作家として活躍。
CWA ゴールド・ダガー賞受賞。

ハードボイルドから英国風ミステリまで幅広い作風を持ち、ミステリの女王と
いわれている。
久し振りに読み返していたら、ついハマってしまって手持ち本をすべて再読(笑)。
全体を通して思ったことは、彼女のストーリーの構図はシンプルなこと。しかしそれを
わくわく読ませてしまうのが、作家の力量ってもの。手に汗にぎる戦慄のシーンあり、
躍動感あふれるアクションシーンあり、疲れた大人の葛藤あり。そして必ずロマンスが
ある。男女の心の綾が女性らしい細やかさで織り込まれているのが特徴。
……そういえば、ほとんどの作品の登場人物にゲイがいるのも特徴かも?(笑)
シリーズ作品として[ストライカー警部補]シリーズと[ブラックウォーターベイ」シリーズ
(ガブリエル保安官)がある。


「赤の女」
「モンキーパズル」-[ジャック・ストライカー警部補]
「ウィッチフォード連続殺人」-[ルーク・アボット]
「殺意のバックラッシュ」-[ジャック・ストライカー警部補]
「死の宣告」-[ルーク・アボット]
「ブラックウォーター湾の殺人」-[ストライカー警部補/マット・ガブリエル保安官]
「ハロウィーンの死体」-[マット・ガブリエル保安官]
「凍った柩」-[マット・ガブリエル保安官]
「死の連鎖」-[ジャック・ストライカー警部補]



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逃げるアヒル 原題 A RUNNING DUCK(1978年)

1990年/ハヤカワ・ミステリ文庫


英国推理作家協会賞新人賞を受賞したデビュー作。
広告会社に勤めるクレアは、ある日街角で狙撃された。警察は、特定の人物を狙ったもので
はなく、変質者による通り魔的犯行と判断するが、今度はクレアのアパートが爆発し、恋人
が巻き添えになって死亡する。一介のOLに過ぎない彼女がなぜ狙われるのか?  やがて、
クレアのおぼろげな記憶の中から、数日前に言葉を交わした一人の男が浮上する。男は警
察が必死に追っている殺し屋だった。
元狙撃兵でサンフランシスコ市警警部補のマイク・マルチェックは、クレアの護衛にあたる
が、完璧なはずの護衛にも関わらず殺し屋に侵入されてしまう。警察内部から情報が漏れて
いたのだ。殺し屋を誘き寄せ、逮捕するために、マイクとクレアの逃避行が始まる。

命を狙われる女と、彼女を護衛する任務に就いた刑事、執拗に彼らを狙う暗殺者。シンプル
な展開だが、スパイスを効かせて、ピリリとしたサスペンスに仕上がっている。
ストーリーに深みを持たせているのは、しっかりとしたキャラクター設定だろう。特に、ベトナム
帰還兵で元狙撃手のマルチェック警部補や、キャリアウーマンとして自立しているクレアは、
それぞれの視点からの描写の巧みさもあって、見事に浮かび上がらせている。
警察内部の密告者は誰か――サスペンスを盛り上げるスパイス効果としては使い古された
パターンでもあるが、戦争の記憶と心の傷、殺し屋の行動を推理する心理戦など、女流作家
らしいきめ細かい構成や、暴力的なタッチ、ラストの森の中の息詰まる遊撃戦の最中、ベトナ
ムで罹患したマラリアの発症しているマルチェックの極限の心理描写など、迫力ある筆致が
鮮烈。結末が読めていたとしても、手に汗を握る展開にわくわくする。

ちなみにスタローン主演の映画「コブラ」の原作となっているが、本作とは泣きたいくらい似て
も似つかぬ作品なので、別物と思ったほうがいい。


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ゼロの罠 原題 THE ZERO TRAP(1979年)

1991年/ハヤカワ・ミステリ文庫


9人の乗客を乗せた貨客機が何者かにハイジャックされた。犯人に打たれた薬による眠りから覚めた乗客たちは、窓の外の光景を見てあっけにとられた。彼らは北極に近い一軒家に置き去りにされていたのだ。極寒の戸外には脱出不可能。米国政府要人の娘、天文学者、殺人容疑者を連行中の警官、歌手…。表面的には何の繋がりもない9人を捕らえた零下の罠の狙いとは? (「BOOK」データベースより)

拉致、脅迫、閉ざされた空間…と舞台装置を整え、サバイバルとミステリとスパイ物にハーレクイン的要素までぶち込んだサスペンス(たぶん)。
北極圏の一軒屋に誘拐した人質を彼らだけで閉じ込めておく、という発想に感心。
零下20度以下という自然の檻に閉じ込められ、犯人と人質との交渉もほとんどない。
そんな彼らの動きと、彼らを発見しようとしている外部の動き。そして徐々に明らかになっていく謎。全体に漂う緊迫感に、次第に精神が追い込まれ、崩壊が始まる。
しかしストーリーは遅々と進まない。もどかしくなっていたら、いきなりの急展開にびっくり。
壮大なスケールで描かれ、寒さと死の影に苦しむ人々の姿も細やかに描写されており、最後の最後まで展開が分からなかったが、印象としてはちょっと薄味かな。


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負け犬のブルース 原題 Loser's Blues(1980年)

1982年/ハヤカワ・ミステリ  1993年/ハヤカワ・ミステリ文庫


クラシックを断念し、ジャズ・ピアニストに転向したジョニーは、無気力な毎日を送っていた。だが昔の恋人が何者かに殺され、彼の生活は一変した。彼女を熱愛していた骨董商が、ジョニーこそ殺人犯だと信じ、復讐してやると脅してきたのだ。数日後、彼は暴漢に襲われ、ピアニストの命である左手を砕かれた。はたして骨董商の差し金か? 胸に怒りを秘め、彼は姿なき敵に立ち向かう。(「BOOK」データベースより)

この作品の魅力は、主人公であるジョニーだ。クラシックのピアニストだったジョニーは、お遊びで組んだジャズバンドのレコードが売れてしまって、現在はクラシックを断念してジャス・ピアニストに転向する。もっとも、今でも充分クラシックを弾きこなせる技量がある。少々世間知らずのジョニーは、優しくもあり頑固でもある。ピアニストの一番大切な左手を砕かれたジョニーは、警察の捜査の遅さに反発し、自分で解決しようとする。事件に積極的に関わることにより、鬱屈した主人公が再生していくのは新味はないが、伏線の張り方といい、手慣れたストーリー運びが楽しい。
全体的にはサスペンス色の濃い作品なのだが、緊迫感と共に洒落た会話がコミカルな味わいを醸していて面白い。ラストでは意外な真相を用意されている。


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