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ダグラス・J.プレストン/リンカ−ン・チャイルド







殺人者の陳列棚(上・下)

 2003年8月/二見書房(文庫)


ニューヨーク、マンハッタンの高層ビル建設現場から、百年前の数十体の人骨が発見された。その全てに脊髄の下部が切断され除去されたような痕跡が残されおり、その特殊な傷跡や残された衣類から、人骨は連続殺人事件の被害者と推察された。時を同じくして、同様に脊髄の下部が切断される連続殺人が発生する。博物館学芸員のノーラは、FBI捜査官ペンダーガストに巻き込まれる形で共に調査を始める。

百年前と現代の二つの事件が交錯する。歴史的な部分や博物館に関わる事柄が丁寧に説明され、過去の事件が次第に明らかになるにつれ、現代の事件はさらにスピーディーに展開していく。
キャラクターも学芸員のノーラ、新聞記者のビル、ニューヨーク市警のオショーネシーなど個性豊かに描かれている。
特に捜査官のペンダーガストの、白っぽい金髪に虹彩の薄い瞳で、妖しい魅力倍増の白皙の美貌という容貌は私のツボ(笑)。黒のスーツが標準装備の、ノーブルな気品漂う紳士であり、運転手付きのロールスロイスで移動する。周囲の者を否応なく巻き込む、さり気ない強引さ。古今東西のあらゆる知識に通じ、異様な推理法で怪しさ大爆発! この飛び道具が出てきたときにはギョッとして、ミステリから逸脱していくかのような展開になるかと身構えてしまったけど、非現実と現実とがほどよく混在しており、ヒネリも効いている。

百年前と現代がクロスオーバーする、ニューヨークの古さと新しさの匂いが鼻孔に漂ってくるような、いい意味でいかがわしく猥雑な世界を堪能できる。


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レリック(上・下)

 1997年5月/扶桑社ミステリー文庫


「ペンダーガスト」シリーズというか、ニューヨーク自然史博物館シリーズ第1作目で、レリック(RELIC)は「遺宝」という意味。

1987年9月、アマゾンの奥地で遠征隊のメンバーは影の種族コソガに伝わる<ン・ブーン>を模した像を発見。ニューヨークへと送るが、隊員は全員が不可解な死をとげていた。
そして現代、ニューヨーク自然史博物館の地下でふたりの少年が惨殺される。次々と発見される、脳を食い荒らされた死体。 FBI捜査官ペンダーガストとニューヨーク市警察のダガスタ警部補は共同戦線をはって犯人逮捕に全力を尽くす。
そして、DNA分析から浮かび上がる、殺人者の意外な正体。
ニューヨーク自然史博物館を舞台とする、 SF、ホラー、パニック、アクションの要素を、綿密な設定で練りこんだ欲張りな小説(笑)。

なんといっても、やや類型的とはいえ文句なくかっこいいキャラクターが、ペンダーガストFBI特別捜査官♪ 冷静な判断力と卓越した行動力。人並みはずれた洞察力と観察力。先入観に囚われない想像力と冴え渡る知性。そして完璧な射撃技術。

「あんたはその場に応じて、お上品な態度をかなぐり捨てられるんだな」
「ちっともFBIの人間らしく見えないわ」
「やつは悪魔のように抜け目がない」

以上は作中のペンダーガスト像といったところ。
怪物とタメを張る存在感といい、 頭が切れてスマートでユーモアがあって射撃の達人とくれば、ほぼ完璧なヒーロー像。 というわけで、キャラクター読みしているような気がしないでもないが、 もちろんストーリーも迫力満点。


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地底大戦−レリック2 (上・下)

1998年4月/扶桑社ミステリー文庫


まるで安っぽい怪獣映画みたいなタイトルだけど、『レリック』の続編で、原題は『RELIQUARY(レリクエリー)』「遺宝箱」。それにしても、この邦訳タイトルはあまりにも酷い。実際、ペンダーガストが出演していなければ読まなかったと思う。だって…手に取るのをためらってしまうほどセンスなさすぎ。
とはいえ、タイトルは酷いけど、『レリック』が丸ごと伏線に過ぎなかったと思わせる圧倒的なスケールで、さらにパワーアップしている。

前作の結末から1年が過ぎたニューヨークの街で、ふたたび凄惨な死体が発見される。その体には、猛獣の爪のようなものでつけられたと思われる深い裂傷があった。
ニューヨーク市警察のダガスタ警部補は新たな脅威の影を感じ、数名の生物学者に意見を求める。やがて、「もう一つのマンハッタン」とでも言うべき広大な地下空間に、「もぐら」と呼ばれるホームレスの住むエリアの、さらに地下深い暗黒の廃虚に巣食う異形のものの存在が明らかになる。

前作に残された数々の謎も全て解き明かされる。
FBI捜査官ペンダーガストや、"特ダネ命"の新聞記者スミスバックといった前作からのキャラクターに加え、NY市警のダガスタ警部補や小柄で男まさりの婦警ヘイワード、ポープの詩を引用したりするインテリ・ホームレスのメフィスト、娘の死をきっかけに平和運動を展開する大富豪パメラなど、多くの個性的なキャラクターを抱え、多角的に、そして騒然とストーリーは進行する。物語上の必要性から言えば少しばかり人員整理をしてもいいように思えたが、それもすべて、終章への助走として必要だったことに気づく。

さらに、警察内部の人間関係、ホームレスがマンハッタンの地下都市に形成している反体制的なコミュニティの詳細な描写、クライマックスでの死闘などなど、前作以上にスリリングで読み応えある。

ところで、ニューヨークの地下世界には、<もぐら>と呼ばれるホームレスたちが5000人も住みついており、誰一人としてその全貌を知らない地下30階にも及ぶ闇の世界である。まるで菊地秀行氏の『魔界都市シリーズ』のような設定なのだから、てっきりフィクションだと思っていたのだが、作者のあとがきによればどうやらほとんどが事実なのだそうだ。ここまで広大な世界が広がってるとは……驚き。
ちなみに、私の愛するベンダーガスト様は、ますますパワーアップして存在感を誇示している(笑)。


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マウント・ドラゴン(上・下)

1998年5月/扶桑社ミステリー


解説によると、SFやミステリーの枠に収まらないエンターテイメント小説ということだが、さらにサバイバルや宝探し的要素もぶち込んだ欲張りな作品。
ジーンダイン社の研究員ガイ・カーソンは、ニューメキシコの砂漠にある最高機密の実験施設“マウント・ドラゴン”への異動を命じられた。ここで開発された人工血液「ピュアブラッド」は量産を待つばかりとなっている。次の目標は、人類に貢献する革命的なプロジェクトになるはずだった。しかし、遺伝子操作を駆使したこの研究は原因不明の失敗に陥り、全人類を絶滅させる可能性を持つ致死性ウィルスが生み出されていたのだ。
ガイの恩師であり、遺伝子操作に異を唱える大学教授レバインは、謎のハッカー「道化師」の協力を得て、この事実をつかみ、ジーンダイン社会長スコープスに挑もうとしていた。
一方、マウント・ドラゴンの中でも致命的な異変が起こりつつあった。

解説で西夜朗氏が「ハリウッド小説」という言葉を使って、徹底したサービス精神にあふれる作品であると述べているが、まさにそのとおり。これでもか、これでもかと、色々な要素が繰り広げられていく。
前半は、遺伝子工学の研究所“マウント・ドラゴン”を舞台した比較的地味な展開だが、後半はうってかわって、サバイバルな砂漠の追跡劇と、電脳情報空間での対決という正反対の世界で、テンポのよく展開していく。
ただ、キャラクターの魅力が今ひとつ。ペンダーガスト様みたいなキャラクターが出てくれば面白いのに。


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