1998年4月/扶桑社ミステリー文庫
まるで安っぽい怪獣映画みたいなタイトルだけど、『レリック』の続編で、原題は『RELIQUARY(レリクエリー)』「遺宝箱」。それにしても、この邦訳タイトルはあまりにも酷い。実際、ペンダーガストが出演していなければ読まなかったと思う。だって…手に取るのをためらってしまうほどセンスなさすぎ。 とはいえ、タイトルは酷いけど、『レリック』が丸ごと伏線に過ぎなかったと思わせる圧倒的なスケールで、さらにパワーアップしている。
前作の結末から1年が過ぎたニューヨークの街で、ふたたび凄惨な死体が発見される。その体には、猛獣の爪のようなものでつけられたと思われる深い裂傷があった。 ニューヨーク市警察のダガスタ警部補は新たな脅威の影を感じ、数名の生物学者に意見を求める。やがて、「もう一つのマンハッタン」とでも言うべき広大な地下空間に、「もぐら」と呼ばれるホームレスの住むエリアの、さらに地下深い暗黒の廃虚に巣食う異形のものの存在が明らかになる。
前作に残された数々の謎も全て解き明かされる。 FBI捜査官ペンダーガストや、"特ダネ命"の新聞記者スミスバックといった前作からのキャラクターに加え、NY市警のダガスタ警部補や小柄で男まさりの婦警ヘイワード、ポープの詩を引用したりするインテリ・ホームレスのメフィスト、娘の死をきっかけに平和運動を展開する大富豪パメラなど、多くの個性的なキャラクターを抱え、多角的に、そして騒然とストーリーは進行する。物語上の必要性から言えば少しばかり人員整理をしてもいいように思えたが、それもすべて、終章への助走として必要だったことに気づく。
さらに、警察内部の人間関係、ホームレスがマンハッタンの地下都市に形成している反体制的なコミュニティの詳細な描写、クライマックスでの死闘などなど、前作以上にスリリングで読み応えある。
ところで、ニューヨークの地下世界には、<もぐら>と呼ばれるホームレスたちが5000人も住みついており、誰一人としてその全貌を知らない地下30階にも及ぶ闇の世界である。まるで菊地秀行氏の『魔界都市シリーズ』のような設定なのだから、てっきりフィクションだと思っていたのだが、作者のあとがきによればどうやらほとんどが事実なのだそうだ。ここまで広大な世界が広がってるとは……驚き。 ちなみに、私の愛するベンダーガスト様は、ますますパワーアップして存在感を誇示している(笑)。
|