1982年/ハヤカワ文庫
KGBの命を受けて破壊活動を繰り返すテロリスト、フランク・バリイ。彼の暗殺を決意した英国情報部は、その実行者にバリイのIRA時代の戦友ブロスナンを選ぶ。だが彼はフランスの警官射殺の罪により、絶海の孤島で終身刑に服していた。釈放を条件に暗殺を請け負わせるべく、情報部IRAを引退したリーアム・デヴリンにブロスナンの説得を依頼するが…。『鷲は舞い降りた』のデヴリンが再び活躍するヒギンズの傑作長篇。 (カバーより)
ジャック・ヒギンズ作品初期の傑作。 『鷲は舞い降りた』から歳月を経て、この物語で再登場するデブリンは61歳。すでに髪に白いものがまじり、IRAからも離れ、母校トリニティ大学で教鞭をとっている。今なお、アイルランドの独立を支持しているが、10年間のIRAの戦いの中で流されたおびただしい人間の血のことが深い心の傷となっている。また、マーティン・ブロスナンもデブリン同様、狂信的テロリストに堕落したバリイの爆弾闘争には以前から批判的な立場をとっていた。
マーティン・ブロスナンもデブリンも、血を流すことがいかに無益であるかに気づいている。
| 「…この世の中に、人間一人の命に値する大義があるかどうか」
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デブリンはそう呟きながらも、ブロスナンの脱獄を手伝い、二人でバリイを追い詰めに行く。
ストーリー全体は恨みを孕んだ空気が漂うように進展していくが、どんでん返しからラストに到る流れは意外なほど爽快。 本書のタイトルの意味は、マーティン・ブロスナンが、厳戒態勢の敵側の将軍や、当時のアルスタ首相、北アイルランド担当相の部屋に侵入し、敢えて机の上に一輪の薔薇の花を置いて去るという行為から。彼が最後の薔薇を置いた場所――そこにヒギンズのロマンチシズムが凝縮している。
閑話休題――以下BLな話題なので苦手な方はすっ飛ばすこと(^^; 9年ほど前に某サークルさんの同人誌の影響で、トニー・ヴァリアーズ×ハリィ・フォックスにハマったのが、この本を読むきっかけとなった(ミーハーなんです、私)。 実はとても地味な役どころで、さらりと読み飛ばされそうな二人であるが、その経歴はなんとも美味しい。←無論、私の中ではその同人誌の二人が影響している。 で、どんな二人かというと、 ■トニー・ヴァリアーズ…准男爵にして近衛歩兵第一師団、SAS、情報四課と三つのポストを掛持ちするおイソガ氏。『エグゾセを狙え』でヒロインを務めるガブリエル女史の元夫…つまりバツ1。3度の戦功十字軍受賞する超エリート。 ■ハリィ・フォックス…母が生粋のアイルランド人で自身もウェールズ出身で、英国とアイルランドの関係を考えると非常に不利であるにも関わらず、現在は情報四課の大尉…これだけでも曰くありげ。情報四課の責任者であるファーガスン准将の補佐官。近衛騎兵隊在籍時にIRAの爆弾テロに遭い左手を失ったため、左手は精巧な義手。この経歴から想像するに、「優雅な外見」とは裏腹に肝っ玉は太いようだ。
二人は本書『テロリストに薔薇を』のほかに、『エグゾセを狙え』『黒の狙撃者』に出演している。設定ではかなり陰影に富んだキャラクターなのに、ほとんど活かされていないのが残念。 尚、トニーは『地獄の季節』にも登場するが性格がほとんど別人と化しているうえに、ハリィに至ってはチラリとも出てこない……(ガーン)。 それでも読み始めると中々止められないのがヒギンズの魅力でもあるのだった(笑)。
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