スーリヤは夏期休暇を過ごすために、森林生態学者である叔母のいる未開の惑星マサラを訪れた。銀河連邦法によって異文化との交流を禁じられた熱帯性雨林気候のマサラの奇妙な植物生育、カワランギと呼ばれる巨木信仰、優れた能力を持つカオヤイという戦士たち――スーリヤの出生の謎は、惑星マサラの不可思議な進化と複雑に絡み合い、この星の運命を担うことになる……。
てっきりファンタジーだと思っていたら、前作『喪神の碑』の30年余後の同一宇宙空間の別惑星での物語。人間の傲慢な好奇心と利害に翻弄されつつも、懸命に前向きに生きようとする惑星マサラと、その惑星に生きる生命を、力強く暖かな視点で描いている。
なによりもカオヤイが魅力的。強くて優しい――人間かくありたいものである。
最終巻、溜め息をつきたくなるような美味しい場面で前作『喪神の碑』のキャラが登場。切ない恋あり、裏切りありと目まぐるしく展開し、前作の後日談に衝撃も受け、気がついたらSFだった。
津守氏自身が後書きで「性格歪んでいない美形ってリアリティないと思うの」とバラしている通り、一癖も二癖もある魅力的な人物がそろっている。もちろん外面もさることながら、内面的な魅力は人物の行動、会話に表れるもの。なぜか美形度が高まるほど、性格が歪んでいるのは作者の趣味らしい(笑)。そして本作でも「対等であるべき人間関係」が提議されている。
『喪神の碑』で張られた伏線がちらちら出てくるので、前作を読んでからの方が分りやすいと思うが、物語自体はみごとに収束しており、ことにラスト・シーンの美しさと余韻が心に沁みる。
平成12年、完全版として再版されたシリーズでは、一巻につき一話ずつ番外編が書かれているが、完全版の方は最終巻以外、未読。←ゼロ船長の秘密が明かされるというので、悩んだ挙句買ってしまった。これを書いているうちに他の外伝も読みたくなっっちゃったぞ。出版社の関係(陰謀)だろうけど、初版で読んでいる立場からいうと、これってちょっとあざとい……。
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