2003年 8月/講談社
書店で歴史のコーナーを眺めていたら見つけてしまって、嬉し恥ずかし好奇心。で、つい手に取ってしまった。
性を語るなんていうと、気恥ずかしいような、背中がくすぐったいような感じだが、性談とは「生」を語ること。つまり、切実な生への渇望と密接な関係がある、とは作者の言葉。
本書の特徴は、江戸時代の男性の幼年期から老年期までの人生を、長いスパンで性愛文化を幅広く見つめていることだ。乳母に恋する少年や、老後もその愉悦を味わいたいと頑張るジイ様など、実際にSEXできる年齢ではなくても男性にとって性は重要な意味があるらしい。だから副題が「男は死ぬまで恋をする」なんだね。
花のお江戸といえば時代劇。つまり現代より制約が多くて、自由な恋愛なんて夢のまた夢…なんて大間違い。江戸期の広範な資料から驚くような奇抜な事例を取りあげて、西洋文化に染まる前の生き生きした性愛文化が描かれている。
江戸時代は少年愛が認められていたため、男の子は年頃になると狙われる対象ともなり、その危ない時期をどう過ごすかが人生の大きな課題であった。特に武家社会では男色が慣習化しており、美少年の肌が政治を左右する可能性すらあった。果たして、成長した男性が結婚するとどうなるかとか、当時人妻の不倫はよくあることで、それが露見すると男性側は泣く泣く穏便に示談にせざるをえなかったとか、さらには性同一性障害や同性愛など、現代であればアブノーマルとされがちな性愛も、江戸期の文脈の中では逸脱と見なされない。とにかく多様な性愛文化と、そのおおらかさには、新鮮な驚きすら感じてしまう。
しかし、その快楽主義ともいえる背景には、時代が「いつ死んでもおかしくない」貧しく厳しい時代であり、それゆえ切実な恋愛が求められたのだそうだ。
ところで、当時の女性は早々と性の現役から足を洗ったそうだ。女は死ぬまで恋をするかわりに何をしていたのだろう。男性の視点からのみ書かれているせいか、そのあたりが不十分なのがちょっと不満。
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